第三章 出逢った音は千変万化の色を鳴らして 一括掲載版

 そうして、暗室喫茶にはクレズニとレクィエだけが残される。口の付けられなかったコーヒーと炭酸水が哀れなので、二人で折半することにした。
「上手くいかなかったな」
 炭酸水を飲みながら、楽しげな様子でレクィエは口にする。今の結果に至ると知っていたようだ。
「あの年頃の子は、年が上の相手には反抗しますから。予想はしていました」
「子どもは大人を信頼しないし、大人は子どもを信用しない。それは兄妹にもあてはまるのかね」
 格言にも聞こえなくはない言葉を選んだレクィエをじっと、見つめる。
 クレズニにとってレクィエは協力者だ。それも、見知らぬ地で初対面のまま雇ったわけではなく、信用はできる相手からの紹介によって知り合った。
 いままで、積極的な関与をしていない辺りも評価できる。第三者として、口や手を出されるという余計な真似をされたら困るところだった。
 クレズニの視線の意図に気付いたのか、レクィエは望みの通りを口にする。
「俺は大人だから、メリットがある限りはお前の味方だよ」
「わかりやすくていいですね」
 クレズニはコーヒーに口を付ける。
 紅茶のほうが馴染んでいるな、と思うに留めた。

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