出逢った音は千変万化の色を鳴らして 第九話

 午後は戦闘実習であるために、修練場に学生たちが集う。それぞれのチャプターに分かれながら、自身の能力の紹介を仲間たちに向かってしていた。
 カクヤたちによる「無音の楽団」の面々も、壇上から離れた右端の場所に集まっていた。
 サレトナが最初に話を切り出す。
「さっき、カクヤにも聞かれたんだけれど。これでも私、危険な目に遭うことがそこそこ。まあ。それなりに多かったのよ」
「そうだとは思っていたけど、聞き流していいとこなのか?」
 ソレシカの質問にサレトナは「一旦、置いて」という動作をする。
「その辺りはいまのところ関係ないから。大事なのは、自己防衛の魔術を常時発動しているの。カクヤとタトエは、試験の時に聞いたでしょう」
 転入学試験で敵と遭遇する前に鳴った甲高い警報は、試験側の設定によるものではなくてサレトナが原因だったらしい。
 カクヤは納得する。
「ソレシカ、試しに私に斧を向けて」
「へい」
 ソレシカが瞬時に斧を取り出した後にサレトナへ向かって振りかぶる真似をすると、聞き覚えのある警戒音が響いた。周囲から視線が集まったが、何事でもないと手を振ってごまかす。
「と、いうわけで私は自分を代償にする自償魔術の使い手です」
 カクヤはひどい勘違いをしたと、再び悔いる。
 自身を傷つけるのと自身を代償にするのには大きな違いは無いのだろう。それでも、サレトナが望んで自分を傷つけていると思い込んだのは手痛い失敗だ。
「さらっと言うけれど、大変じゃない。代償系の魔術なんて」
「まあ、自己防衛は大事だからな。そこは割り切るしかないんだろ」
 タトエは心配し、ソレシカは理解を示す。拒絶をされなかったことにサレトナは微笑むだけだった。
 話を終えたサレトナは、事前に配られていたボードを床から持ち上げて、広げる。修練場の床に座りながら四人でボードを囲んだ。
「はい、それでは集団戦の役割分担を考えましょう」
 二面に分けられたボードに赤い磁石を二つ中心に近い場所に置き、下手の中心に黄色、後列に青を置く。その上にタトエが各自の名前を書いたシールを貼っていった。
 ソレシカはあぐらをかきながら言う。
「カクヤは全体見てろよ。リーダーなんだから」
「へーい。ってかいつの間にか決められたな」
「僕もそれでいいと思うよ。ただ、最初の立ち位置はこうなるのだろうけど、実際に乱戦になったら、どう動いたらいいかな。サレトナを守るのか。カクヤたちに加わるのか」
「それだけじゃないわ。敵陣を引っかき回すとか、カクヤたちの補助に回るとか、いくらでも戦い方はあるでしょう」
 戦術に関して話は盛り上がっていく。
 カクヤは刀と聖歌を主にしていて、ソレシカは斧一辺倒だという。聖法も、魔法も魔術も使えない。だとしたら、ソレシカは前衛に集中させていくことがいいのか、など仮定を立てていく。
 タトエは補助系統の聖法を多く身につけていて、攻撃に転じる技も一定の範囲から行える。下手に接近戦に持ち込まないようにするのが賢明に思えた。
 サレトナは圧倒的な魔力を誇っている。試験の際に見せてもらった「氷華彩塵」以外にも多様な魔術を扱えるという。
「いっそ、サレトナを固定砲台にしておいて、薙ぎ払ってもらってもよくね?」
 ソレシカがサレトナの磁石から真っ直ぐ指を伸ばしていく。
「できなくはないでしょうけど」
「できるんだ」
「氷華彩塵よりも詠唱時間は長くなるけれど、月砕砲とかあるから」
「すごい名前だな」
 ロストウェルスの魔術の神秘に感嘆するしかなかった。
 様々なことを話していく間に基本の方針は決まる。サレトナは回復と攻撃、タトエが補助に回って場を攪乱し、カクヤとソレシカが中堅以降を守るために攻撃を引きつけるということになった。
 戦闘実習に間に合わせるために、技法の公開をする運びになる。その途中でソレシカが手を挙げた。
「言い遅れてたけど。俺は、魔力貫通の時と無効になる日が分かれてっから」
「いきなりなによ」
 日に応じて、ソレシカは受ける聖魔法が三倍の威力になる時と全く効果がない時があるということだった。使用する相手が敵味方どちらであろうとも関係なく、受ける損傷も三倍になり、受けないときは欠片も受け付けない。治癒魔法でも同様だという。
 貫通の日と無効の日はソレシカが選択できるときもあれば、調子が悪いと「こちらになった」となる日があるとされる。
「器用な体だね」
「いっても、一日は決めた効果が続くから。戦況に応じた切り替えができないのは不便ではあるな」
 簡単に言われたが、特殊な性質でもあった。場合によっては活路を拓くこともできる。
「今日はどちらなの?」
「いまは通らない。カクヤと戦った日は、通る日だったからやべってなって止めた」
「なるほどな」
 カクヤが炎を使い出したために、斬撃の威力よりも炎を危ぶんで降参した。
 理由がわかると納得できることではあった。
「タトエはそういった特殊な何かはあるのか?」
「あのね、誰も彼もが変わっていると思わないでよ」
 答えからすると、タトエはごく普通の人間だ。カクヤもサレトナやソレシカのような際立った個性がないため少し救われる。


>第三章第十話



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