流月の半ばの昼休みに、チャプターのリーダーが集まり、講評試合についての説明を受ける会が開かれた。
ローエンカによる説明が終わったあと、クロルは清風と話をしながら教室へと戻る。あまり人好きをするとはいえない性格のクロルだが、清風とは良好な関係を築くことができていた。清風の持ち前の明るさがクロルの偏屈を柔軟にしてしまうのだろう。
「そういや、この前にチャプターの皆でモノノ木へ遊びに行ったんだよ。そうしたら」
「チャプターの面々で遊びに行くのか?」
クロルは怪訝な顔をした。清風はその表情を見ても、ただきょとんとしている。
清風と同じくチャプターのリーダーであるクロルだが、自分たちが和気藹々と揃って出かけるなど想像もつかなかった。クロルのチャプターである「スィヴィア」は良く言えば個人主義、あえて苦く言うのならば協調性が薄い。ロリカはまだ面倒見が良いが、アユナは人嫌いで、マルディは自身が楽しいことを優先させる。それに加えて自分が学外の時間で会うということすら、考えづらい。
清風はクロルのことを気にせずに言う。
「まあ、楽しかったぜ」
士気向上という面においては、集団で出かけるということは有益なのだろうか。
クロルは困惑しながらも、真面目に考える。
いままでセイジュリオ以外の場所でチャプターで行動するという発想はなかった。だが、もしもそれが可能であるならば、より一層、協働性を深めることができるのか。さらに、来月には講評試合も控えている。そのために打てる手はなんであれ、打っておきたかった。
だが、とクロルはやはり疑問に思う。
「チャプターとは、効果的に実力を発揮する以上に関わる理由があるのか?」
清風は答えない。黙って苦笑している。
その表情を見た者は清風が何を言いたいのかをすぐに察するだろう。「そんなに難しく考えることか?」といったものだ。
だが、クロルには伝わらない。
「まあ、仲が良いのに越したことはないだろ」
清風の言葉にクロルは考え込む。
チャプター間での仲の良さというものについて、今まで考えたことがなかった。
次の授業の予鈴が鳴り始める。教室までは角を曲がればたどり着くところまで来た。
清風とクロルは別れ、それぞれの教室へ戻っていく。そのあいだもクロルは考えてばかりだ。
友好とは。
クロルは悩んでいる。
発端は、数日前に清風と話したことだ。講評試合に備えてチャプターでの交流を深めるべきか、そうではないのか。リーダーとして友好な策を選ばなくてはならない。
戦闘実習のために修練場へ向かうため、渡り廊下を歩いていると、ロリカに声をかけられた。
「シェンサイト。どうした」
「何が」
「ずっと難しい顔をしている」
言って、ロリカは自身の眉間を叩く。クロルのことを気遣ってくれていた。
クロルは一瞬、逡巡した後に、清風との話は伏せて説明する。チャプターとして、今後のために共に外出するなどといった行為は必要かどうか。
ロリカは頷きながら話を聞いて、答えた。
「どちらでもいい」
クロルはあまりにも簡素な返答に呆気に取られた。
「学業の場以外でもチャプターの面々が交流するかどうかは、そのチャプターによるだろう。必ずしも、行うべきことだとは思わない」
滔々と語られ、ばっさりと切られたクロルは少し落ち込む。
僕の考えていたことは、それほど浅かったのか。
「しかし、そんなことで君が悩むとは。意外だな」
「試してみるのも一つの手と考えただけだ。トライセル、ノーゼン!」
並んで歩かないで前にいる二人に呼びかけると、アユナとマルディが振り向いた。「なんだ」といった顔をしている。
クロルはこの後輩二人にはどうにも、敬われている気がしない。
だが、それでも自分はリーダーだという誇りを持って言う。
「今度、チャプターとして出かけないか」
「行きません」
アユナは縋る余地もなく切り捨てた。
「もう少し気を遣いなさいよ、あんたは」
マルディが言うが、アユナはつんとすましたまま修練場に向かって歩いて行く。立ち尽くすクロルの肩をロリカが叩いた。
また、黙々と歩き出すスィヴィアの面々を、別のチャプターが通り過ぎていく。
無音の楽団だ。
カクヤを中心に、談笑しながら四人は歩いて行く。仲の良さそうなその光景を見送るクロルは思ってしまう。
決して強くはないというのに。どうして、それほど固い絆があるのだろう。チャプターとして組み始めた時期は同じだというのに。どうして、それほど強く互いを信頼できるのか。
「クロル先輩?」
「ん、ああ」
我に返ったクロルはまた歩き出す。マルディが斜め前に並んだ。
「いま、タトエたちを見ていましたよね」
「べつに」
否定とも肯定ともとれない返事をすると、マルディはくすりと笑う。
「まあまあ。私は先輩の、そういう不器用なところ、結構好きですよ。あと、アユナは仕方ない。人を拗らせていますから」
「セキヤ先輩か」
「というか、主格人類そのものが嫌いなんでしょうね」
真っ直ぐに背筋を伸ばして先を行く、アユナの一人きりの背中を見て、クロルは思う。
それはそれで大変だ。
「と、いうわけで。私とクロル先輩とロリカ先輩で、どこか行きます?」
「だったら、トライセルも誘うぞ。僕はスィヴィアのリーダーだからな」
振り向いたロリカが頷く。それでこそ、といった調子だ。
まとまりがなくとも。仲が良くなくとも。自己中心であろうとも。
自分たちは、四人揃ってスィヴィアというチャプターだ。




