食堂には四人掛けのテーブルが二つあった。木製で脚やテーブルの縁には植物の蔦模様が刻まれている。いまは分割されていて、明日からは六人になるためつなげると貴海は言った。
鑑定眼の厳しい人ならばテーブルと背もたれのある椅子に目をやるかもしれないが、由為の視線を打ち付けたのは。
「最後の夕食ですか」
「最初の晩餐だな」
上手の右に座っているファレンが言い直す。由為はテーブルに手をついて、彼岸最初の食事を目の前に腹を空かせていた。
食事はすでに分けられていた。一人につきプレートが一枚とスープ用のカップが一つ、あとは主食をよそう椀があった。ファレンに勧められて、今日だけはと準備が終わる前に席に着く。
開けられたままの扉から七日が大皿を手にして現れた。中央に置かれた料理を見て由為は不安になる。
「毎日こんなに贅沢なんですか」
「手が込まれているのは今日か明日くらいだろう。明後日からはその時々だな」
よかった。毎日こんなに食べていたら肥えてしまう。
七日からの視線を感じながら由為は机に並べられた料理をまた一巡した。
中心にあるのは赤と白の花の蒸し焼きだ。くたりとしなだれながらも瑞々しさを失っていないのは怯える年ごろの娘のようで背徳もあおってくる。プレートにあるサラダは青を中心にたまに白い花が小首をかしげるように座らされていた。紅海のスープに青がところどころに振り注いでいる粥。
此岸のざっくり煮たり焼いたりする料理とは根本が違う。見た目に恥じないだろう上品な味わいに舌が付いていけるか不安になってしまう。
「待たせたな」
貴海が最後にやってきてファレンの隣に座った。
食前の挨拶を終わらせてから由為はスープに匙を伸ばす。澄んだ紅色の麗しさと口の中に入れた時のしっかりとした味の違いに由為は思わず声を上げてしまう。
「おいしいです!」
「そっか」
「スープは七日の自信作です」
「言わなくていいから」
決めた顔で口にするファレンに七日は呆れている。先ほどよりもかたくなではない姿はファレンがいるからなのか。緊張が解けてきているのか。
視線が合う。七日は自然に目を移動させて主菜である花の蒸し焼きを切り分けだした。由為は七日の思うままに距離を作ればよいのか、歩み寄る努力をするのとどちらが良いか悩む。
由為としては七日と楽しい時間を過ごせるようになりたかった。此岸の人付き合いは敬意と気遣いでなりたっている。七日のようにわざとつっけんどうの態度をとる人はいなかった。したかった人はいるかもしれないが実行に移したら生きていけなくなる。此岸の生活範囲は狭く、害を及ぼすならば排他するしかない。自分も相手も望まなくても。
みんな優しく笑顔でいたい。
その慣習を当たり前のものとして受け入れていたことに気付き、今度はみんなとは、何だと由為は疑問に思う。
切り終えられた花を新品の食器で取り分けている貴海と、サラダを攻略している七日に、二人を見守りながら由為にも微笑みかけるファレン。同じテーブルを囲んでいるが此岸とは違う人たちしかここにはいない。
由為は少し冷めた主菜を食器で刺して食べた。
生まれた疑問も味わっているあいだは消えていく。
花園の墓守 由為編 第一章『違う空を見るために』
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