一番目を終えた時点で、サレトナの演奏が止まる。上から下に鍵盤を鳴らして、止んだ。
カクヤもつかんでいたマイクから手を放して、顔を上げる。
ぱち、ぱちと規則正しく手を叩くのはセキヤだった。普段の精悍な笑みではなく、柔らかな微笑みを浮かべて、礼賛する。
「やるじゃないか、カクヤ」
「ありがとうございます。でも、サレトナとはどういう繋がりなんですか?」
気になっていたことを尋ねると拍手は止まり、胸を張られた。
「僕のアクトコンのかわいい後輩だ」
「憧れの先輩よ」
あの、奇人仮面として登場する以前からサレトナはセキヤと出会っていたようだ。だから、セキヤが乱入してきたときも、驚きはしても動揺しなかったのかと納得する。
その後もサレトナは演奏のアクトコンに加入して、セキヤと交流を深めていったようだ。だとしても、後輩の頼みを聞いて休日に足労までしてくれるとは、セキヤの面倒見は良いのだろう。あまり意外ではなかった。
セキヤは自身の強さを誇りにしているが、振りかざして周囲を威圧させることはしない。その姿勢は何事に対しても同様なのだろう。
セキヤは椅子から立ち上がる。何をするのかと思えば、壁に立てかけていたケースからベースを取り出す。そして、演奏の準備を始めていた。
軽く弦を鳴らしながらカクヤに微笑みかける。
「刀を握っている時よりも、いい顔をして、良い歌を唄うんだな」
優しい声だった。これまでの語気の強さが拭われたように消えている。
「見直したよ。君にも、譲れないものがあると知れてよかった」
そこまで話してから、セキヤは演奏を始める。ベースを低く鳴らし、全体を支えていく。サレトナもキーボードをセキヤのベースに合わせて鳴らす。鍵盤を叩き、徐々にリズムが整っていくのを感じた。
二つの楽器に耳を傾けていくと、何の曲を演奏しようとしているのかが伝わってくる。
カクヤもマイクを構えた。
ばらばらであった楽器が、声が、一つの流れに吸い込まれていく。
奏でられるのは、音楽だ。シルスリクに生きている者ならば、一度は聞いたことのある曲が始まった。
名前は「切り取られた瞳」という。
第四章 鳴り響け青き春の旋律よ 一括掲載版
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