変奏曲より紡がれし明日への希望 第二話

 翌日、絢都アルスの最南にある停留所までソレシカとナイテンが見送りに来てくれた。
 すでにカクヤたちの荷物は魔車と呼ばれる、しつけられた魔獣が動力源の車に乗せられている。あとはカクヤたちが乗り込めば無事に出発だ。
 ナイテンは普段と変わらない愛想のまま言う。
「気をつけて行って、帰ってきてください」
「お土産はなくてもいいからな」
 続いたソレシカの言葉に苦笑しつつ、タトエが頷いた。
 それぞれの声かけが終わったところで、出発の前準備を知らせる高い笛が鳴る。カクヤたちはソレシカとナイテンに背を向けて、カクヤ、サレトナ、タトエの順に魔車へと乗り込んだ。
「いってきます!」
 ソレシカとナイテンがそれぞれ頷いた。最後まで見送るつもりなのか、まだ立ち去ろうとはしない。
 カクヤは仕切りの先にいる御者に声をかけた。
「まずはヘキサまでお願いします」
 帽子を被った男性の御者が頷く。御者は二人一組が慣例だそうで、左側には女性の御者が座っていた。
 カクヤは改めて魔車を見渡す。左右に向きあうようにして椅子があり、乗員は多くて十二名ほどだろう。長時間座ることに対する苦痛を和らげるためのクッションも用意してあった。カクヤはサレトナとタトエにもクッションを渡しておく。
 魔車も大陸シルスリクにおいて一般的な移動手段だ。海路も整備されつつあるが、安全性の確保と一度に乗せられる乗員の限界を考えると陸路が堅実かつ安価な移動手段となる。さらに、定期的な魔力の補充さえすれば安定して稼働する魔獣は動物に代わる車の動力となった。四つ足で駆け、四角い箱のような車体を運んでいく。
 魔車を動かす魔獣という存在は四つの戦歴と呼ばれる、地裂暦、暴風暦、烈火暦、氷塵暦の最中に悪魔という種族が生み出した。各地で害をもたらすために、改暦されてからは人は魔獣を討伐するか、捕まえてしつけ直すことを選んだ。無事にしつけが成功したら、魔車の動力のように利用される。それ以外にも魔獣の利用例は多々存在する。
 カクヤは先月、セキヤと共に訪れた罪業研究所を思い出していた。あの場では魔獣の死骸と思われるものも散らばっていた。
 だが、セキヤはどうして自分をあの場に連れて行ったのだろう。ミュイと会わせたかっただけではない気がする。とはいえ、そのことを聞こうとすると毎回はぐらかされるため、真実を知ることもできなかった。
 そこまで考えたところで、魔車が動き出す。御者から鞭を与えられたことによる驚きではなく、決められた音と動きによって染みついた反射から魔獣は前に足を進めていった。
 からからと徐々に速度を増していき、ソレシカとナイテンが遠ざかっていく。手を振って見送る友人の姿を見つめながら、カクヤは胸に寂しさを覚えていた。
 故郷へ一旦帰省する。それだけなのに馴染んだ場所からまた距離を置くことが、胸を緩く締め付けた。その息苦しさの名前をカクヤはまだ知らない。
 魔車を見渡すと、左隣にタトエがいて、右隣にサレトナがいる。他の乗客は眠っている男性と知人同士なのか話している女性が二人だけだ。
「ヘキサまではどれくらいなの?」
「早くて、三時間くらいかな」
「どんな街なんだ?」
 タトエは窓の外を見ながら答える。
「本当に、普通の街だよ」
 同意するように魔車は揺れる。がたがたと。

第八章第三話



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