ロストウェルスのお嬢さんを連れてくる、とカクヤから聞いたときには不安が先立った。サフェリアを失ったギーデンノーグのキルシカとコルトガがどのような難癖をつけにやってくるかわからない。
あの二人は、未だにカクヤがサフェリアを奪ったと信じ、憎んでいる。
それでもクシクはカクヤの頼みだから、目一杯の準備をしてサレトナ・ロストウェルスともう一人の友人であるタトエ・エルダーをもてなした。幸いにも、二人とも善良な気質の持ち主で、それぞれに助けられた。
夕食を終えて、順番に入浴を済ませてから寝室に当たる部屋へと移動する。クシクは最後だった。いつものことだから慣れている。
すでに、サレトナは増えた布団の上でちょこんと正しく座っていた。
クシクは自身の寝台に移動しながら、慣れていない待遇であろうに戸惑いを見せないサレトナに心からの謝罪をする。
「私と同室でごめんなさいね」
「いえ。カクヤのお母様とお話できるなんて、嬉しいです」
世辞ではない調子で口にされた言葉にクシクは胸が詰まった。
ああ、いいお嬢さんだ。カクヤの隣にいても大丈夫そうな子だ。
クシクはサレトナに微笑みかけて、部屋の明かりを消すための言葉を唱えようとした。だが、その前に真剣な表情で言われる。
「あの、クシクさん。カクヤとサフェリアさんについて、お聞きしたいことがあります」
「ごめんなさい。その話は」
夕食前の言い争いを見られてしまったことは事実だ。それでも、クシクはサレトナにカクヤとサフェリアの因縁を話す気にはなれなかった。今日出会ったばかりの少女に話すには、身内の恥が過ぎるというものだ。
クシクの固い意思は伝わっているのだろう。しかし、サレトナも引かなかった。クシクを正面から見つめて言う。
「クシクさん」
その言葉には背筋を伸ばさずにはいられない、威厳があった。
「私はカクヤに惹かれています」
我が子ではあるが、贔屓目に見てもお付き合いの相手としてカクヤは勧められる存在ではない。それを承知の上でサレトナはカクヤに想いを寄せていると告げた。
橙色の明かりに照らされる部屋は静かだ。その中で、サレトナの色彩が一際鮮やかに浮かび上がっていた。
「ですから、クシクさん。はっきりさせたいことが一つだけあります。それだけでいいですから、教えてください」
暗に察するに、サレトナもサフェリアの事情は知っているらしい。これ以上誤魔化すこともできず、クシクは躊躇いながら口を開いた。
「何のことかしら」
「サフェリアさんが亡くなったとされる日です。一体、何があったのですか?」
「そうね」
サレトナが知りたいと言ったのは、カクヤとサフェリアの関係などではなかった。それならば、話してもよいのかもしれない。今日はすでに醜態を見られてしまっているのだ。
街の、他の人から聞かされるくらいなら、最も事実に近いことを知っている自分が話してしまうのがよいだろう。
変奏曲より紡がれし明日への希望 第十一話
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