寝不足だ。
今日は流月の三週目の土曜日になる。暦としてはさほど重要ではないが、今日という日はカクヤにとって重大な日であった。
サレトナと二人きりで出かけることになった。
よく眠れなかったのは緊張が原因によるものかは不明だが、眠いことには変わりはない。それでも自身を叱咤して、カクヤは二階の洗面所で顔を洗った。
頭はまだすっきりとはしない。重たい頭を抱えたまま、食堂へ向かった。
「おはよう」
「あら。おはよう」
「おはよ」
タトエとサレトナはすでに四人がけの席に着いて食事を摂っている。今日はパンにジャムを付けて、スープはコンソメ仕立てであっさりとさせている。副菜はサラダ、主食はハムエッグだ。完熟の卵が光を吸収している。
休日の朝食は食べる面々が多い。そのため、パンに塗るジャムやペーストといったものは選択できるが、主菜と副菜は統一されている。カクヤもパンに付けるジャムとしてブルーベリージャムを選ぶと、タトエの隣に座った。
唯一いないのはソレシカだが、彼は朝が遅い。だから、不在を気にする者はいなかった。食事の提供時間までには下りてくるだろう。
席に着いたカクヤがあくびを一つする。
「眠そうだね」
「ああ。寝不足」
「今日は大丈夫なの?」
遠因が心配していない様子で尋ねてくる。
「安心しろ。心の準備はできている」
カクヤの答えにサレトナは納得したのか、食事を再開する。タトエは疑問符を頭に浮かべていた。
「二人とも、どこか行くの?」
「ええ。今日はカクヤとお出かけよ」
タトエの手が止まる。琥珀色の目は見開かれ、明らかに衝撃を受けていた。
だが、タトエの驚く理由がわからない。
「どうして教えてくれなかったの!」
「だって、私とカクヤの用事だもの」
サレトナにもっともなことを言い返される。タトエも意味はわかっているようだ。けれど、納得できていない。パンを食べる手を止めながら、悔しそうに口を横にひん曲げている。
悪いことをしてしまったのだろうか。だが、逐一タトエに「サレトナと出かけるんだぜ!」と言うのはしつこいではないだろうか。
カクヤは思い悩む。
「おーはよ」
ソレシカが下りてきて、食堂に入ってきた。周囲を見渡して、サレトナの隣ではなくて座席としては離れている、二人がけの席の奥側に座った。タトエの隣と言えなくもない。
「カクヤ、サレトナ。今日のデートは楽しんでこいよ」
「で、でーとじゃないの! お出かけ!」
サレトナの強硬な言い分に、完全に傷つかずにはいられなかった。
最初に出会った頃よりもサレトナとの距離は縮まってきたが、同時につんとした態度も取られ始めている。それも大抵はつれないものばかりで、甘やかしが今後あるのかどうかは謎なままだ。
いつもならば仲介に出てくるはずのタトエも、未だショックを引きずっているのか黙々と食べることを再開していた。
「ソレシカですら知っているのに。僕が知らなかったなんて」
「失礼だな。おい」
カクヤは食事ができたと呼ばれたので、朝食が乗せられたトレイを取りにいった。
つんとしたサレトナに、落ち込んでいるタトエに、マイペースなままでいるというソレシカが揃っている。
場はますます混迷を究めそうだ。
>第四章第十三話