鳴り響け青き春の旋律よ 第十三話

 食事を済まし、支度を終えてカクヤとサレトナは沈黙の楽器亭を出る。
 タトエとソレシカは揃って見送ってくれた。怒っていたり、戸惑っている様子はもう見受けられなかった。
 晴天の空の下でカクヤは心が浮き立つのを感じる。
 だってこれは、やっぱりデートだろ。いくら否定されても。
 口にはできないが、憎からず気にかけている相手に誘われて、気分が高揚しないほど枯れているわけではない。
 そして、今日の主役は誘ってくれたサレトナだが、リードだってきちんとしたい。
 カクヤはその思いを隠したまま、さりげなく聞こえるように気をつけながら尋ねる。
「で、サレトナはどこに行きたいんだ?」
「イノコードにまず行って、ご飯を食べて。最後は秘密ね」
 サレトナは指を折りながら答え、最後にはにこりと微笑んでくれた。純粋な微笑を向けられて、挙げられた計画に否応を挟む余地はなかった。
 宿街から、住宅街を通らずにロウエン広場から英断商路に向かうことにした。一昨日の件を思い出したくないのもあった。けれど、一番の理由は少しでも華やかな場所を歩いて、非日常感を味わいたかったという点が大きい。
 大切に感じ始めている女の子と二人きりだ。綺麗なものを一つでも多く見つけたい。
 今日のロウエン広場は常よりも盛況で、屋台がぽつぽつと並んでいるほどだった。売られているカスティラの甘い香りが鼻に届く。子どもが手に収まる程度のカスティラをまぐまぐと食べていた。
 そういった光景を二人並んで見ながら、話す内容は日常のことが多い。セイジュリオに転学してようやく一月半になる。これからの授業や、雨月の講評試合など、待ち受ける困難も多々ある。
「でもね、友だちと毎日を過ごせるのは、とても楽しいことだと思うの」
「サレトナはロストウェルスでは、学校に通っていなかったのか?」
「半分くらいは通っていたけれど。ロストウェルスはアルスほど活気のある街とは言えないし。私も、一応ね。領家の娘だから、やっぱり気を遣われるのよ」
 「ありがたいことだけれどね」とサレトナは続けた。
 カクヤは曖昧に笑うしかできなかった。気を遣われていることに傷つくというよりも、申し訳なさを抱いているのだと伝わってくる。配慮してもらえるのは感謝すべきことだが、対等な立場とは一線を引かれているように受け取るのも仕方ないのだろう。
「そういうカクヤは、どうだったの? アルスに来る前は」
「来る前か」
 記憶をたぐっていく。
 両親は健在で、やんちゃな弟がいて、まれに叔父が遊びに来ては歌と刀を教えてくれていた。他には小さな街なので、近所の人たちとの距離も探りながらの狭さで、協力し合いながら暮らしていた。
 ごく、普通に生活していた。
 その答えに行き着く前に差し込まれたノイズを無視しながら、笑う。
「のんべんだらりと、呑気に暮らしていたよ」
「そう?」
「ああ。ほら、着いた」
 歩いている間にイノコードの前まで来ていた。以前はタトエもいたが、今日は二人きりで入店する。

>第四章第十四話



    • URLをコピーしました!

    この記事を書いた人

    不完全書庫というサイトを運営しています。
    オリジナル小説・イラスト・レビューなどなど積み立て中。

    目次