雨月の十日は雲がわずかに姿を見せる程度の快晴だった。
この日から、セイジュリオでの講評試合が始まる。全学年の学生が会場となる校庭に列を作って集まり、開会の挨拶が催されていた。
いままで入学式や巡回などでしか目にする機会のなかった、セイジュリオの学長である申告・エンコウが開会の言葉を述べる。
「本日は雲が薄く漂っていますが、晴天となりました。絶好とは言えなくとも、良い日和となり、喜ぶべきことです。これからの一週間のために、努力を積み重ねてきた皆さん。準備に尽力してくださった、皆さん。ありがとうございます。その成果を余すことなく発揮してください。それでは、講評試合の開始を宣言いたします」
会場の下手側に位置する管弦楽団が高らかに楽器を鳴らし、弾き、開会の合図を広くセイジュリオに知らしめていく。
そして、校庭に用意されていた三つの会場を覆っていた幕がはらはらと空中に溶けていき、会場の様子が明らかになる。学生たちが並んでいる周囲をコの字で覆うように各試合を行う会場は設置されていた。
中心にある青い壁の上に一人の学生が立っている。逆光で顔は見えなくとも、陽光によって紫を薄く光らせる銀の髪はその人物が誰であるのかを雄弁に告げていた。
セキヤ・トライセルだ。
再び、管楽器が鳴らされる。低く低く、階段を上るように音階を踏みながら、演奏は盛り上がりをみせていく。弦楽器も演奏に混ざるのに合わせて、セキヤも動き出す。
刀を天にかざし、横薙ぎに振り払い、また目前に掲げる。演奏に合わせた舞は堂々と力強く、鋭い。
神に揺るがぬ勝利を捧げている。
「相変わらず、することが派手だな」
ソレシカの感想にカクヤは苦笑する。身も蓋もないが、事実だ。だが、同時に観客と場所に怖じ気づくことなく舞を踊りきるセキヤも敬意を払うに値する。
大波の演奏が続いていたが、徐々に終わりに近づいていく。調子が早くなり、何度も拍を刻んでいきながら、最後の一音は一分の乱れもなく揃い、空に響いた。
セキヤも動きを止めた。両足を並べて、礼をする。
誘導されることなく、演奏と演者に対する拍手が鳴り響いた。
「それでは、第一試合の準備を始めます。チャプター『群青の筏』と『シュレンゼル』、そして」
拍手の間を縫いながら、誘導のアナウンスが流れていく。開会式はこれで解散だ。
カクヤたち「無音の楽団」の試合は第二試合からになる。これ以降、「ユユシ」と「無音の楽団」は接触禁止となり、互いに試合の準備を行っていく。
カクヤと清風は黙って視線を合わせると、左腕と右腕を掲げる。作った拳を打ち合わせてから、各自の控え室へと向かっていった。
旋律は音を移して戦歌となる 第五話
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