戦歌を高らかに転調は平穏に 第一話

 沈黙の楽器亭の応接室にて、サフェリアは愛想よく笑っている。両手を膝の上に揃えて、カクヤ達が口にすべき言葉をいまかいまかと待ちかねているようだった。
 同じくサフェリアと向かい合った席に座っている、カクヤとサレトナは言葉を探しあぐねていた。カクヤにしてみれば、亡くなったはずの幼馴染みが突如現れたことに対して困惑を隠せない。サレトナもカクヤの知られざる過去に思うところがあるようだった。
 とはいえど、いつまでもラウンジで立ち尽くしてその場を占領するわけにはいかなかったために、沈黙の楽器亭の従業員であるレングに応接室を使用する許可を取ってもらえたところまではよかった。
 だが、問題は現在にある。
 サフェリアはどうして、カクヤを尋ねてきたのか。
 応接室に入っても、サフェリアは微笑を続けるだけで何も言わない。カクヤ達も、何も言えない。
 重苦しい沈黙が漂う中で、ようやく、デザートが来ないと理解したサフェリアが口を開いた。
「怯えなくても、食べたりしないわよ」
「怯えてなんていない。どうやって、どうしてサフェリアがここに来たのかがわからないから、困ってるんだよ」
「ひどいわね。会うことが困る間柄なの? 私たち。それとも、そこのお嬢さんがいるから?」
「サレトナ・ロストウェルスです」
 揺れのない口調だった。
 サフェリアから水を向けられ、一歩も引かない頑固さを感じさせる強さでサレトナは自身の名を明かした。視線がぶつかり合っても互いに引かなかった。
 カクヤははらはらする。
 サフェリアは何も言わずに笑みを深めると、机の上にカードを出した。新しい物ではない。角が折れて色あせた青い柄のカードの束だ。
「聞きたいことは何でもただで教えてもらえるとは思わないことね。カードを使って勝負しましょう」
 どちらが相手をするか、と視線を動かされ、サレトナで止まった。同じく、サレトナも応える。
「私がお相手します」
「一合わせでいいかしら」
 サフェリアが提案したのは、一から十三までの数字が書かれたカードを使う遊びだった。数が小さいほど、またペアになったカードが多いほど強くなる。
 サレトナは黙って頷いた。
 カードを切る役は公平を期すために、カクヤが任されることになった。久方ぶりに長方形のカードを切り、並べ、重ね直してから山札にしてサレトナとサフェリアの間に置く。
 最初にカードを手にしたのはサフェリアだった。五枚ずつ上から取っていく。手札を見てから、サフェリアは二枚、サレトナは一枚捨てると、また山札からカードを取る。
 カードが出そろった。表にする前に、サフェリアが問う。
「あなたの質問は、なに?」
「カクヤはあなたになにをしたの」
 厳しい問いだった。見守るカクヤの表情がこわばってしまう。
 口を開きかけるカクヤをサフェリアは視線のみで制しながら、黙ってカードを広げていく。場に現れたのは、青と赤の二、緑と黄の九、そして赤の一だ。
 サレトナが見せたカードは青と緑の八、緑と黄の七だった。
 サフェリアが二のペアを持っている時点で、サレトナの負けになる。
「私の勝ちね。答える必要は、ないってこと」
「そうですね」
 冷静な様子でサレトナは答えた。
 秘密にできることがありがたいような、それとも自分から後でサレトナにサフェリアとの因縁を明かした方が良いのか、カクヤは悩む。ただ、いまその言葉を口にすると両方から怒られそうなので唇をしっかりと貼り合わせていた。

第六章第二話



    • URLをコピーしました!

    この記事を書いた人

    不完全書庫というサイトを運営しています。
    オリジナル小説・イラスト・レビューなどなど積み立て中。

    目次