鳴り響け青き春の旋律よ 第八話

 そうしている間に、カクヤとタトエに呼ばれる。二人はすでに術法を考えついて実践に移していたようだ。
 ソレシカは不機嫌なままのサレトナを引っ張りながら、カクヤたちのところまで歩いていく。
「なにか考えついた?」
「何かはな。そっちはどうなんだ?」
 カクヤとタトエは頷き合うと、体勢を整えた。
 まずはカクヤが聖歌を唱える。
「彼の者の祈りのために祈る」
 白い光がタトエを包み込んでいく。その間にも、タトエは自身の聖法を編んでいった。カクヤに向かって、手を差し出す。
「敬遠なる星の輝きを」
 今度はカクヤの周囲に丸い光が生まれた。ソレシカは試しに、指の関節でカクヤを覆う光を叩いてみる。ほわん、と反響した。
 それだけだというのに、カクヤとタトエは自慢げだ。
「災害時や緊急時には、空からの落下物を防いだり、周囲が火事とかになっても使えるように、一定の条件を満たさない限り、壊れず通さず守り切る障壁を作ってみたよ。まあ、実際にその効果を発揮するにはもっと改良しないといけないけどね」
 タトエが説明した。
「戦闘実習とかでは、サレトナの周囲とソレシカ、俺とかに一度このバリアを張るというわけさ。ある程度のダメージは軽減できるはずだ」
「考えたわね」
 サレトナは納得しながら、タトエが張る障壁について検分している。どれだけの強度があり、何回ダメージを中和できるか測っているようだ。
「こっちとは正反対だな」
 ソレシカとサレトナが攻撃を任されたのと違い、カクヤとタトエは防御特化で今回のスキルを考えていたようだ。
 感心している間に、ソレシカとサレトナの「なんかこう格好良い技」についての説明を求められた。サレトナが、今回はソレシカがダメージ貫通の際に、中距離広範囲攻撃を考えていたことを説明する。
「次の時には、俺が聖魔力無効の時の特攻用スキルも考えるけどな」
「そうだね。今日はこれくらいで、内容をまとめて申請しようか」
 各自、手持ちのノートに今日考えたスキルの技術法名と、内容をまとめていく。その後は空板を起動させて、申告した。スキルを考える授業とはいえ、危険性の高い技術法を際限なく生み出すわけにはいかないので、監査が必要になる。
 カクヤのスキルに関しては使用許可が短時間で下りた。タトエも同様だ。
 しばらくしてから、ソレシカの技も許可が下りるが、サレトナには中々許可が下りない。待っている間に、カクヤとタトエは聖法の練習をしていた。防ぐ前に攻撃されて散ってしまったら意味が無い。
 カクヤの聖歌は二秒ほどで、その後にタトエが指で陣を描いて、障壁を編み出す。合わせても五秒ほどだ。さらに短縮が、必要になるだろうと相談している。
 サレトナの術の承認はまだ下りない。
 それどころか、いままで別のチャプターで話をしていたローエンカとヤスズが揃ってサレトナを尋ねてきた。
 ローエンカは眉を寄せて、明らかに困った表情を浮かべている。サレトナの前に立つと、気まずさと厳しさの入り交じった声で言う。
「ロストウェルス」
「はい」
「今後、セイジュリオ内において、闇魔術の使用を禁じる」
「どうしてですか」
 サレトナは珍しく反抗するが、ヤスズが落ち着くようになだめる。
「闇魔術だから、と差別しているのではありません。ただの判断でしたら、貴方の自償魔術もすでに取り上げています。ですが、今回申請された内容から察するに、ロストウェルスさんの闇魔術は深くて昏い相当な威力を持つものになります。威力と危険性を鑑みての、判断です。それにロストウェルスさんには氷魔術もあるでしょう。月魔術までは良しとするので、どうかセイジュリオでは闇魔術を使用しないでください」
 反論しても無駄だと悟ったのか、サレトナは「わかりました」と答えて了承した。
 その場でサレトナの空板を起動させると、闇魔術に関しては全て打ち消し線が引かれている。
 神が起動を止めた。
 制止の意思が明確に伝わってくる打ち消し線の行の束は、一種の恐ろしさすら見る者に与えてくる。普段は恵みを与える神が、その慈悲を停止させた結果が、いまソレシカたちの目にしているものだった。
「まあ、今回はこっちの説明ミスもあるから。ロストウェルスはスキル提出じゃなくて、既に所持しているスキルの提出でいい。気分の悪い思いをさせてすまなかったな」
 それだけを言い残して、謝罪してからローエンカとヤスズは去っていった。
 サレトナはまだうつむいている。自身のしたことを恥と感じているのか、ソレシカの足を引っ張ったことを申し訳なく思っているのかは不明だ。
「でもさ、よかったよ」
 カクヤの言葉に、サレトナが顔を上げる。
「なにが良かったのよ。私は、一気に役立たずになったじゃない」
「いや。良かったよ。戦闘実習前に闇魔術が使えないことがわかって。その場でだめだ、って言われたら、戦術の立て直しどころじゃないだろ? それに、サレトナは手数が減るだけ、周囲を見渡すことができるから。サポート、よろしくな」
 カクヤの言葉によって納得はできたのか、サレトナは言葉を返さなかった。椅子に座って。まだうつむいている。
 タトエとソレシカは黙って視線を合わせるしかなかった。
 今日の授業が終わる。

第四章第九話



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