瞬移の門をくぐり抜けた先の場所でカクヤが最初に感じたのは虚飾のない権威だ。
屋敷の一室なのだろう。壁は目に痛みを覚えさせない白さで、床は靴を履いていてもわかるほど厚みのある臙脂色の絨毯が敷かれている。背後に接続を終えた瞬移の門がある以外に調度品はない。移動専用の部屋なのだろう。
目の前には女性がいる。闊達そうな、大きく開かれた青い瞳が印象的だ。身につけている衣服も使用人というほど素朴ではなく、かといって派手でもない。密やかにフリルのついたシャツと動きやすそうな黒いズボンの組み合わせがよく似合っている。
「おかえりなさい、サレトナ。そしてご学友の皆さん」
芯の通った声が響く。カクヤたちは頭を下げると、慌てて手を横に振られる。
「そんなことしなくていいから。私はソロン・ロールズ。サレトナの母の妹よ」
「お久しぶりです。ソロン様」
サレトナの挨拶の後に視線を向けられる。タトエは落ち着いて、カクヤも急がないように気をつけながら自己紹介をした。
ソロンはにっこりと笑うと、サレトナたちを部屋から連れ出していく。扉がしまり、廊下に出る。大広間まで進んでいく。
「じゃあ、まずはコウクンさんにお会いして」
「その必要は当然あるけれど。まずは、僕に挨拶をするのが筋じゃないのかな」
いままで快活だったソロンの雰囲気が硬くなる。同様に、サレトナも普段から伸ばしている背筋をさらに伸ばしていることに気が付いた。
大広間に設置されているアーチ状の階段から下りてくる、二つの影がある。
一つはクレズニ・ロストウェルスのものであり、もう一つは。
捉えた瞬間に、カクヤの背にぞわりと緊張が走った。
年齢や、経験や、そういったものを超越する圧倒的な自負に打ちのめされそうだ。
影が動く。光が差して、その面が明らかになる。両腕が鷹の翼のごとく開かれた。
「はじめまして、皆さん。ロストウェルス当主代行のリエン・ロストウェルスです。……待っていたよ、サレトナ」
サレトナも背を押されるまでもなく、進んで先頭に立った。表情はわからない。穏やかに微笑んでいるのか、きつくにらみつけているのか。
「はい。私もこの時をお待ちしておりました。リエン様」
上に立つ者と下から見上げる者として、リエンとサレトナは互いに熱く見つめ合う。
「ただの、友人の家におとまりでは」
「ないね」
カクヤとタトエは小さく洩らす。
どうやら、想像を絶する出来事が待ち受けていそうだ。
第六章 「変奏曲より紡がれし明日への希望」 終
>第九章「希望の交響曲は裏切りの音を響かせて」


