平穏と罪業の変奏曲はいずれ 第十一話

 清風がゴールにボールを叩き込んだ。上から落下したボールが転々と転がっていく。カクヤはボールを拾うために歩いていった。
 シャレート公園にある遊技場の一つに、カクヤと清風、ルーレスは集まっていた。誘いをかけたのは清風で、気になることがあるという。ルーレスは議題を知っているようだが、曖昧な微笑を浮かべるだけだった。
 そしていま、カクヤが清風にボールを投げると、勢いよく投げ返された。
「もう、プロポーズしろよ! ロスウェルちゃんに!」
「何の話だよ」
 カクヤは受け取ったボールを地面と手の間で反復させながら、走って前に進んでいく。立ち塞がる清風に真正面から挑みかかり、その寸前で背中を見せると守りを抜けた。今度はカクヤがシュートを決める。
 ててん、と転がるボールを清風は見向きもしない。ボールはベンチに座っているルーレスの足下まで転がったので、そこで戯れは終了となった。
 カクヤと清風はルーレスのいるベンチまで歩いていく。カクヤ、清風、ルーレスと横並びに座ることになった。
「でも、どうしてアラタメたちがロストウェルスさんの家に行くことになったの? 僕も行きたい。クレズニさんと話をしたい」
「遠慮しろよ」
 清風は抑えようとするのだが、ルーレスは「クレズニさんに会いたいんだ」と続けて言う。普段は淡泊で誰に対しても執着を見せないルーレスが、特定の個人に強い関心を持つのは珍しい。よほど、講評試合の時にクレズニと話をした経験が楽しかったのだろう。
「クレズニさんなら英断商路の色んな店で働いているし、洒落猫の微睡みのレクィエさんに言えば、会えるんじゃないか?」
「今度行くよ」
 早口で前のめりに言われると中々怖い。
 一旦、話が前に戻る。
 今回の流れになった原因は、清風が「ロスウェルちゃんと進展はあったの?}とカクヤに聞き、カクヤが素直に「夏期休暇にロストウェルスに誘われた」と答えたためだ。カクヤ自身にしてみれば、ありのままを答えただけだったのだが、清風には違う響きに聞こえたらしい。
「だけど、ロストウェルスってすごいんだな」
「それでよく今回の試験、大丈夫だったね」
 ルーレスはカクヤに憐れみの目を向けた。カクヤはボールを持ちながら、肩をすくめる。視界に入る緑は鮮やかだ。試験の結果にはまだ目を向けたくない。
「都会に出て、他種続と交流しないと実感しにくいよな。俺は精霊族も混じっているから、たまに獣人族の奴と喧嘩してるだろ? そういう歴史による相性があるんだよ」
 清風が水筒を取り出しながらざっくりとまとめてくる。
 シルスリクでは、標準の基準とされる人族、背が高く魔法術に優れる精霊族、どこかで獣の血が混ざることによって身体能力が強化された獣人族、そして少数だが全体的に優れた能力を持つ竜族が主格人類として存在している。他にも天使や悪魔といった種族もあるそうだが、カクヤは実際に会ったことはない。
「いい? ロストウェルスはノーブル・マテリアルを守護する一族なんだからね。同じ人族であっても、格が違うんだよ」
「だから、カクヤは婿になるしかないな!」
「なんでそういう話に!」
 ルーレスによる真面目な説明から、清風の茶々入れに移るとどうしても顔が赤くなってしまう。そうして、講評試合の最後の夜のことを思い出さずにもいられなかった。
 いつもは清風を諫めるルーレスだが、今回はカクヤの味方をしてくれなかった。
「でも、そういうことにはなるでしょう。講評試合で二人に何かあったんだろうし」
 「言え」と二人の青い目と緑の目が告げている。
 カクヤは覚悟を決めて、ボールを持ったまま、言った。
「手、つないだ」
 直後に清風によって、ばしんばしんと強い力で背中を叩かれる。
「青春だなー!」
「痛いいたい! なんで、清風が楽しそうなんだよ!」
「楽しいから! 俺、人の恋の話はだーいすき!」
 笑顔で言い切りながらもまだ清風はカクヤの背中を叩いてくる。ルーレスはというと、カクヤの肩にそっと手を置いた。
 ルーレスもまた苦労していることが伝わる温もりがあった。

>第七章第十二話



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