「月が綺麗ですね」は実在しない、ということは

 情報をそのまま信用するのではなく、一度立ち止まることが必要です。

 SNS(Blue sky)にて【「月が綺麗ですね」の返しは「死んでもいいわ」が有名だけどウチの子はなんて返すんだろう】というハッシュタグをタイムラインでよく見かけました。最初は「また新しいタグができましたね」くらいの感想でした。
 そうして、ふと、私はkindleで「夏目漱石全集・122作品」という本を買っていたことを思い出し、「月が綺麗ですね」の出典を調べようとしました。

 そうしたら、ないのです。


【月が綺麗ですねの軌跡をたどって】

 夏目漱石先生の著作で「月が綺麗ですね」と書かれた作品はありませんでした。その時は「まあ全ての作品をこの本は収録しているわけではないので」と納得しようとしました。
 ですが、違和感があります。
 どうして、「夏目漱石先生が『月が綺麗ですね』を“I love you”と訳したこと」を、これほど多くの方が知っているのでしょうと。
 それなのに、どうして、その知識を疑わずにハッシュタグに乗っているのでしょう、と。
 私はとあるサイトにアクセスしました。
レファレンス共同データベース」です。こちらは図書館に寄せられた、全国津々浦々のレファレンスが掲載されています。便利ですね。
 「レファレンス共同データベース」にて、「月が綺麗ですね」と検索すると、出てきました。「月が綺麗ですね」の根拠となる文献です。
 詳細は以下のURLからお読みください。
 「夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したとされる根拠となる文献はないか。

 答えを先に出すと、ないのです。
 「夏目漱石先生が“I love you”を『月が綺麗ですね』と訳した文」は見つかっていません。いまのところ。
 ないはずのものが、あることにされた瞬間を垣間見たのだと思うと、ぞっとしました。


【ないことを確認することも大事だから】

 私は上記のハッシュタグを考えた方を非難するといった意図や考えはありません。
 ただ、響きの良さやロマンティック、単純に「それらしい」に乗って、事実が確認されずに広がっていくことの恐ろしさを改めて味わったのです。
 今回はあまり被害や悪影響をもたらすことのないハッシュタグや創作のネタでした。
 けれども、こういった勢いで悪意がある、もしくは現実に被害の出る情報が「真実だ」とされたら、とても大変なことです。

 情報を拡散する前に、まずは「一次情報」(その情報の原文等)を確かめることが大切です。
 言語や時代により一次情報を確かめることが難しい場合は、その一次情報が確かなのか、一次情報を出した二次情報はないかと調べていきます。
 そうしたことができないと、本当にインターネットという場は怖いものだ、ということ。また、情報というものの不確かさに慄然としました。

 「それらしさ」や「もっともだ」ということに乗ることは簡単です。
 だからこそ、確かめてください。調べてください。それらの行為が難しいのでしたら、下手に情報を拡散することは危険すらはらんでいます。現代という時代は、特に。
 間違えたことは罪ではないにしろ、その結果が過ちになりましたら取り返しがつかないのだと、私も痛感しています。

 今回の「『月が綺麗ですね』のハッシュタグ」により、私がこちらの記事を書くために筆を執ったことは大仰であり、ハッシュタグを使用した方には不愉快に思われる可能性もあります。
 だけれども、私も「『月が綺麗ですね』は有名な一節である」という前提を疑わずに、上記のハッシュタグに乗っていたかもしれない、ということ。「疑わない」ということが、とても怖かったために、今回は書こうと決めました。
 私へ。きちんと、出典は調べましょう。

 最後に。該当のハッシュタグを最初に発信された方はどなたかと調べました。
 自作であるのか、それとも全く別のSNSから借用したのか、判別がつきません。ですの、このままそっと終わらせていただきます。


(初出 2026年2月21日)

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