鳴り響け青き春の旋律よ 第三話

 カクヤに、ソレシカに、清風にルーレスという面子で揃って行動することにも慣れてきた。クラス全体では他にも学生はいるのだが、主に輪になっているのはこの四人だ。カクヤと清風はチャプターのリーダー同士で話をすることも多く、カクヤとソレシカ、清風とルーレスは同じチャプターの仲間という繋がりもあって、自然と行動を共にしている。
「このメンバーでラーメン屋もやれるか?」
「面白そうだな。ルーレスが材料を調達して、ソレシカが経営。カクヤが調理して、俺が食べる」
「運べよ」
 調子の良い清風の発言に合いの手を入れると、笑われた。
「まあ、店員はサレトナとかフィリッシュでもいいんじゃないかな」
 勝手な夢を膨らませていく発言だが、カクヤはサレトナが沈黙の楽器亭で給仕をしているように、空想のラーメン屋で働いている様子を思い浮かべた。
「いや。サレトナはカフェとかそういうところで働く姿が似合う」
 断固としてルーレスの発言を一蹴すると、頑固さに苦笑される。
「こだわるね」
「俺だったら、タトエが『らっしゃいませ!』と言うのも新鮮でいいけどな」
「これだから恋する男の子たちは! 妄想力が豊かなんだから!」
 清風はラーメンの図書を両手で抱えながら、体を左右にいやいやと振る。ソレシカは珍しいものを見る目で眺めていたが、カクヤは違っていた。
「べつに、恋をしてるわけじゃないし」
 カクヤにとって、譲れないこだわりだった。
 確かにサレトナは猫を被っているけれども可愛くて、いつだってカクヤを正面から見てくれる大切な少女だが、まだ恋ではない。無性に気になるだけだ。
 心の内の言い分は伝えずにいるというのに、清風を初めとする三人は信じられないという目をカクヤに向けた。広い図書室だが、いまは四人がいる場所だけ照明が暗くなった気さえする。
「恋じゃないというのなら、むしろ気持ち悪いよ。執着とかで近づいている気がする」
 ルーレスの言葉にカクヤは言い返せなかった。
 サレトナへ恋をしていると言い切れるほど付き合いが長いわけでも、強い感情を抱いているわけでもない。ただ、気になる。目が勝手に姿を探してしまう。近くにいてくれると嬉しくて、遠くにいるのならば見守ってしまう。
 などと言ったら、「それは恋だ」と返されそうだが、まだカクヤは自身の感情を認められなかった。
 すでに認めているソレシカは、図書を戻しながら清風に尋ねる。
「清風は好きな子とかいないのか?」
 返答は軽やかな笑いという曖昧なものだった。
 秘密主義のルーレスに関しては、尋ねても具体的な答えは返ってくることはないだろう。
 また、カクヤたちがそれぞれ目的の図書を探し始める。一年図書室に所蔵する図書は必ずしも読了して終えなくていても良いのだが、できるだけ読むことは推奨されていた。
 カクヤが請求番号が六から始まる棚を見ていたときに、来た。
 サレトナが来た。
「どう? 図書探しは順調かしら」
「それなりに。サレトナは?」
「順調だからここに来たのよ」
 サレトナは手に一冊の図書も持っていなかったが、すでに今日の候補は挙げ終えたらしい。真面目だと、カクヤは感心する。
「それでね、カクヤ。今週の土曜日はどこかに出かける用事とか、ある?」
「いや。ないけど」
「よかった。一緒に出かけてもらいたいところがあるのだけれど、駄目かしら」
 いままで会話をしていた、清風やソレシカが静かになる。
 カクヤはいま、図書を手にしていない幸運を噛みしめた。手にしていたら確実に落としていた。
「大丈夫だけど!?」
 声が勢いよく飛び出て、ひっくり返る。
 それを気にしないでサレトナは微笑んだ。
「じゃあ、今週の土曜日。よろしくね」
 言い終えるとサレトナはさらりと戻っていく。カクヤがその後ろ姿を呆然と見送っていると、清風にルーレス、ソレシカの三人は戻ってきて、カクヤの背中を何度も叩いた。
「痛いわ」
「夢じゃないってわかっただろ」
「おめでとう!」
「そこの学生たち。図書を探しなさい」
 ハスカの冷静な注意を受けて、今度は四人とも散開した。

第四章第四話



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