ソレシカの転居をセイジュリオに届け出る。無事に受理された。
カクヤたちは四人で通りを進む。薄暗くなった道を照らすほのかな光を受けながら、沈黙の楽器亭へと戻っていった。
入口をくぐると、ラウンジには知った顔の人がソファにいる。
「あれ? レクィエさん」
「よ。入学おめでとさん」
「今度は夕食ですか?」
もうディナータイムは始まっている。それなのにここにいるのは不思議だと思いながらカクヤは尋ねた。レクィエは笑って首を横に振る。
「用事は俺ではなくて、こちらさんにあってな」
レクィエの隣のソファに座っていた男性が立ち上がる。
鈍い青灰色の髪を短く切りそろえているが、前髪の一部だけが長い。その下にはかたくなな意志の瞳がある。青玉を限界まで鋭く研磨したらこの色になるのだろう。鼻は高く、唇は薄い。身につけているのは青灰の法衣で、白い布を首元で交差させて巻いている。
青海は灰に埋もれより鈍く。
刃を作られなかった代わりに、刀身に海を閉じ込めたという印象を与える青年だった。
カクヤもソレシカも沈黙している中で、サレトナだけがこぼす。
「兄さん?」
「ええ。皆様、はじめまして。サレトナの兄である、クレズニ・ロストウェルスと申します」
一礼を優雅に済ませてから、サレトナに目を向ける。
届かない理想を蔑む視線だった。
緊張した雰囲気の中で、クレズニは言う。
「そこにいる愚妹の監視にきました」
なんだそれは。
カクヤとタトエ、ソレシカの気持ちが一つになった瞬間だった。レクィエだけが楽しそうに笑っている。
敵意を向けられたサレトナの表情もまた、厳しいものだった。慣れ親しんだ失望が訪れても、諦めることはしたくない。
自身が儚い存在であろうとも、辛苦に立ち向かう決意が、サレトナにはあった。
奏で始めて新たな音に出会うから 第九話
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