鳴り響け青き春の旋律よ 第六話

 午後の授業のために、ソレシカはタトエを迎えに一年生の教室へ向かった。手にはノートとペンケースを提げている。
 高い身長を生かして周囲を見渡していると、可愛い琥珀色の少年はすぐに見つかる。歩きながら、タトエの隣には一人の学生がいることに気付いた。
 以前、あの仮面奇人であるセキヤという学生に立ち向かった学生だ。黒髪で、眼鏡をかけている。
 タトエよりも先にソレシカに気付いた学生は声を上げる。
「あ、先輩はん。こんにはー」
 ずれた口調の学生だった。敬語とも、そうではないとも言いがたいが、苛立ちが湧くことはない。
「はい、こんには。君は、あのとき仮面奇人に挑んだ」
「万理・タンガーといいます。ソレシカ先輩」
「どうして俺の名を」
 タトエを見ながらソレシカが尋ねると、予想通りの答えが返ってきた。
「はい。タトエはんから聞きましたわ」
 自分のいないところで、タトエが自分についての話をしていた。そのことにソレシカは感動する。
「タトエ」
 喜びのあまりに声をつまらせていると平坦な口調で言われる。
「チャプターのことを教えてくれ、と言われただけだからね」
「敵情視察に簡単に乗るなよ。まあ、タトエの口から俺の名前が出たから許すけど」
 上機嫌なままのソレシカにタトエはこれ以上触れることはしないと決めたようだった。万理はにこにこと笑ったままなので、内心では何を考えているのかわからない。
 教室の入り口で小さな三角形を作っていたら、言われた。
「邪魔です」
 聞き覚えのある冷徹な声にソレシカは身構える。振り向くと、触れたら切れそうなほどの鋭さで整えられたアユナがいた。
 以前のように舌鋒を喰らわせられると思っていたのだが、アユナは冷めた一瞥を向けただけで去っていく。
 次の授業のことを考えて、ソレシカたちも移動することになった。思いがけず、後輩二人をソレシカが引率する形だ。
 ソレシカが万理にアユナはいつだって先ほどのような冷たい態度なのかを問いかけると、首を傾げられる。
「アユナはんも厳しいお人やから」
「俺に当たりが強い気がするんだが、人間嫌いなのか?」
 万理は曖昧に頷いた。はっきりと断言はしかねるが、嘘も吐けないといったところだ。
 ソレシカは納得する。
 あれだけ整った容姿をしていると、それだけで嫌な目に遭うことも多かったのだろう。無遠慮な好意を寄せられて辟易したことも少なくないはずだ。とはいえど、自身のタトエへの感情は純粋なる好意なのでそれまでもざっくばらんに扱われると傷つくものがある。
「あとは、アユナはセキヤ先輩の弟だから。目立つみたいだね」
「なるほど、いけ好かないわけだ」
「人の友人にそういうこと言わないでよ」
 タトエに厳しく叱られた。素直に頭を下げる。
「ごめん」
 渡り廊下を歩き、二階にある修練場へ移動する。すでに学生は集まっていて、いくつかのチャプターに分かれていた。
 万理も清風たちを見つけると、挨拶をしてタトエから離れていく。
 二人きりになったソレシカとタトエは、カクヤとサレトナを探した。
 右奥で、設備として用意されている椅子にカクヤとサレトナは座っていた。サレトナがホワイトボードに置いてあるマグネットを動かしながら、カクヤに向かって話をしている。どうやら戦術の相談らしい。
 カクヤはソレシカたちに気付いて手を上げる。
「よ」
「うぃーす」
「サレトナ、今日は氷をありがとうね。おかげでお弁当も美味しかったよ」
「どういたしまして」
 それぞれ話を済ませると、ノートとペンケースからペンを取り出した。
 今日の授業はスキル作成になる。事前に考えていた技、聖法、魔法、魔術のいずれかを一つの技術として完成させることが目的だ。来月の雨月に行われる戦闘実習でも必要となり、また日常生活や非常時において役立てる技術であるかが評価の肝となる。
「今日はどういう組み合わせで考えようか」
 タトエが切り出す。前回の授業では個人のスキルを考えていたため、今回は二人で組み合わせた複合法術を編み出そうということは決めていた。
「そうだな。サレトナとソレシカを組み合わせてみたい。多分、戦闘実習のメインの攻撃方法はそこになる。だから、二人でなんかこう格好良い技を考えてくれ」
「曖昧なのに難易度高いこと言うな」
 ソレシカは笑いながら了承した。サレトナに視線を向けると、頷かれる。
 いままではタトエとばかりだったために、サレトナと組むのは初めてだ。
 ソレシカはサレトナに向き直った。
「よろしく」
「ええ。さて、二パターンは考えないとね。ソレシカの特異体質があるから」
 さばさばとサレトナは行動を開始した。
 サレトナの言うとおり、ソレシカは聖魔力抵抗倍増の日と無効の日があるため、それぞれの場合に応じて考える必要があった。
 カクヤとタトエ、ソレシカとサレトナに分かれる。

第四章第七話



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