大きな声ではなかったが、集まっていた四人が散らばっていく。
その様子をフィリッシュは呆れながら見ていた。
「あーあ。やっぱり注意された」
「そういうフィリッシュは図書を見つけられている?」
「サレトナ、アラタメに何を伝えにいったの?」
ロリカからの忠告を流して、サレトナが男子学生側に近づいていった理由を尋ねると、平然とした様子で返された。
「土曜日に、良ければ出かけましょうと」
「っは」
危なかった。
ロリカが指を立ててくれたのを見たために、叫ぶ事態による悲劇を起こさずに済んだ。
とはいえど、納得はできない。声を潜めながらサレトナに尋ねる。
「それって、デートってこと?」
「お出かけよ。ただの」
年頃の男女が出かけるだけで、それはすでにデートと呼んで差し支えがないのだが、とフィリッシュは言い募る。だけれど、サレトナはすました態度のままだ。猫の被り方を変えた時のサレトナの心境は普段と違ってわかりづらい。フィリッシュはやきもきしてしまう。
サレトナは大切な友人だからこそ、アラタメのような中途半端な男には近づいて欲しくない。だが、正面から伝えるには、言葉を選ぶ必要があった。その言葉が見つからない。
「男の人と二人で出かけるのは、特別なことなのかしら」
「性別ではない。誰かと出かけたいか、が重要だ。サレトナは今回、アラタメではないと行けない理由がある」
ロリカが補助に回ってくれた。口調は硬い少女だが、理知的で落ち着いているため、フィリッシュとサレトナと三人でいると、バランスが上手く取れる。
フィリッシュは肝心の話題には踏み込めなかったが、サレトナが落ち着いたので一度口を閉じた。
「それに、いまは授業の時間だ。聞きたいことはあるが、休み時間を無駄にしないためにも図書を探そう」
ロリカの言葉で切り替わり、また一年図書室の作成に戻っていく。興味のある分野、無い分野に関わらず、目を通していって所蔵する図書を見つけていった。
所蔵する図書を選んだ後も、請求番号を始めにあらすじや作者も書き取らなくてはならない。一年図書室は地道な作業が多い授業になる。だから、一回の授業で手を抜くと後からすることが増えていく。
フィリッシュは作業に集中していくが、気の一部がどうしても違う方向へ逸れていくのは認めざるを得なかった。
同郷のサレトナだが、生まれ育ったロストウェルスで異性と関わる機会は少なかった。それどころか、サレトナ自身が異性に関心を寄せるのは初めてのことだとも言える。
年頃の少女としては当然の心の動きなのだろうが、相手がカクヤ・アラタメなのが妙に気にかかった。
永遠に異性と遮断して生きていくわけにはいかないため、今回の交流はサレトナにとってもよいことなのだろう。
それでも、気になってしまう。
どうして、アラタメなのか。
鳴り響け青き春の旋律よ 第四話
-
URLをコピーしました!