二メートルほど距離のある場所から、入れ替わり立ち替わり演奏していくセイジュリオの学生達を眺めていた。
サレトナがメロディを務めると、セキヤは下から旋律を支えてきて、メルクがリズムをつける。安定があり、優雅な曲調が多い。白や桜色の明るい光景が耳を通して目に浮かぶ。
クー達の演奏は、激しい。ギターが熱狂的にかき鳴らされるが、不快にならないようにベースが厚みを加えてくる。さらにクーのドラムが乗って、否応にも立ち上がり、リズムを刻みたくなる演奏が続いていった。
最後のナイヤとゲイクは前の二人から引き継いだ盛り上がりを徐々に落ち着かせていき、夜に月を眺める心地よさを奏でてくれた。楽器は二つだが、互いに絡み合って調和を感じさせる。
いいな。
ただ楽器を奏でるだけではなく、視線を交わしながら互いを意識する楽団に対して、カクヤは素直な羨望を覚えた。
いままでは一人で唄ってきたけれど。誰かと奏でられるのも、いいな。
セイジュリオに来るまでは、きっと、そんなことなど思えなかった。サフェリアを失ってしまった自分にはそんな資格などないと、許せずにいた。
だけど、いまは。
カクヤは演奏するサレトナを見つめる。目が合うと、隠しきれない楽しさと共に微笑まれた。カクヤも笑う。
サレトナは俺でいいと教えてくれた。もう、過去のことを許してもいいのではないか。
演奏を終えて、サレトナ達が舞台を降りる。
次の演奏が始まる前に、セキヤが隣の椅子に腰を下ろした。
「どうだい?」
「楽しいです」
「うん。以前よりも、明るくなった。負け癖も講評試合でなんとかなったみたいだね」
最初に出会った頃に堂々と指摘された事実に恥ずかしさを思い出しながらも、カクヤは頷いた。
「サレトナのおかげです」
セイジュリオに来て良き出会いは沢山あった。
タトエ、ソレシカ、清風、ルーレス、フィリッシュ、ロリカ、アユナ、万理といった学生に、ヤサギドリ先生を初めとする教師陣もいる。さらに、ナイテンなど沈黙の楽器亭の人々に加え、店の人達も親切だ。
今回のアクトコンの人たちに加え、セキヤも強い印象を与えてくる。
だが、全ての始まりはサレトナだ。
「それはいいことだ。で、君は以前の約束を覚えているか?」
「約束?」
カクヤが首を傾げると、セキヤは言葉にしがたい様子で苦笑した。
「講試が終わったら、一緒に来てもらいたいところがあると言っただろう」
その言葉を聞いて思い出す。流月の、クロルのチャプターであるスィヴィアにこてんぱんにやられた日の帰り道に、セキヤに誘われた。
講評試合の後も学術試験や授業に追われて、そのことはカクヤの頭からすっかり吹き飛んでしまっていた。
「すみません。忘れていました」
「で、いつなら空いている」
カクヤは今後の予定を思い出す。今週は清風とルーレスと出かける約束があり、来週はまた忙しい。
「早くて、二十一日ですね」
「わかった。その日は頼むよ」
用事が済んだのか、セキヤは立ち上がる。また演奏に参加するようだ。
「どこに行くんですか?」
セキヤは黙って指を口の前に立てる。そして、いつかのようにまた手を差しだした。
拒むことなく立ち上がり、カクヤもまた楽団の中に飛び込んでいく。サレトナとセキヤ、メルクの演奏に歌を絡ませていった。
それからしばらくして、解散することになる。ナイヤからは「入っても入らなくても、いつでも来ていいからね」と優しく声をかけられた。
遅い加入ではあるが、楽奏のアクトコンへの参加をカクヤも真剣に考える。
セイジュリオの後期には「暁旗祭」という行事がある。外部にも開放して、セイジュリオでの学習の成果を文化面で公表する大がかりな祭事だ。楽奏のアクトコンも自由参加ではあるが、出演するらしい。
舞台を見上げるのではなく、舞台に立つのも楽しそうだ。
連れてきてくれたサレトナに感謝しつつ、カクヤは沈黙の楽器亭へと帰宅していった。
>第七章第五話




