チョコレートクッキーの代償は

 放課後というの解放感とわずかながらの寂しさが入り交じる時間帯だ。
 アクトコンなど課外活動にいそしむ学生達は違うのだろうが、ソレシカにしては短時間勤務に行く日などを除けば、少々時間を持て余してしまう。
 課題が溜まりがちな図書館製作の作業を少しだけ進めてから、ソレシカが二学年一クラスの教室に戻ると、ロリカと清風という珍しい組み合わせの二人がいた。
 ロリカは口数の少ない怜悧な少女で、ソレシカのチャプターであるサレトナと、フィリッシュという少女とよく三人でいる。その際にもまとめ役になることが多い。
 清風はユユシというチャプターのリーダーで、天性による、人を惹きつける魅力を持っている。明るく元気な性格も話しかけやすくて助かることが多い。
 しかし、この二人だけで一緒にいるところを見るのは初めてだ。
 ソレシカが不思議に思っていると、先に清風に話しかけられた。
「なあ、ソレシカ。お前はどうしてカクヤのチャプターに入ったんだ?」
「タトエのために」
 後々、それだけではない理由も出てきたのだが、最初のきっかけであり大きな理由を返すと納得したように頷かれる。
「命唱は?」
「クロルに誘われたことが大きいが、実は他にも声をかけられていた。だから」
 ロリカは鞄から、四角い長方形の箱を取り出した。見覚えのある占い道具だ。
「これで、決めた」
「占いができるのか。すごいな」
 傲ることなく、淡々とロリカは頷いた。
 そうして箱とは別に布を敷くと、布の上に箱を置いて言う。
「二人とも、対価を払うのならば占おう。大した物でなくてもよい。占いは、代償が必要というだけだから」
「よーし! 乗った!」
 言って、清風は売店の割引チケットをロリカに渡していた。ソレシカも空いている椅子に座って、ロリカが占う様子を眺めることにする。
 雑誌などに載る占いをぱらぱらと眺めることはあっても、実際に人が占われる様子を間近で見るのは初めてだ。興味深い。
 ロリカが清風に、何を占うのかを尋ねると、清風は顎に手を当てながら首を傾げた。
「じゃあな。次の神学の試験結果が良いか悪いか!」
 ヤスズ・レイオンが担当している神学は採点が厳しいと評判だ。座学では最も点数の気になる教科といえるだろう。
 妥当な依頼にロリカは淡々と頷いて、タロットを机の上に敷いた布の上に広げた。最初に左にかき混ぜて、次に右へかき混ぜる。束にしてから再びタロットを切り、三つの上に分けてから、また一つに戻した。
 そして、六枚を机の隅に重ねると、七枚目から九枚目までを布の上に置いた。
 一枚ずつタロットが表にされていく。手に汗を握るほどではないが、流れる動きを感心しながらソレシカは眺めていた。
 左から、二つの試験官を扱う若者、月の上に乗る乙女、崖の上から落ちかけている青年が出てきた。
 ロリカが説明する。
「一枚目は、現在。魔術師の正位置だ。今のところするべきことは怠っていない。良い方向を見ている」
「どうもー」
 清風の相槌にロリカは頷いた。
「二枚目は、月の逆位置。これが正位置だったら不安要素になるが、逆位置なのでそこまで悪い結果にはならないだろう。そして、アドバイスは愚者の正位置。恐れずに、真っ直ぐ研鑽を積み重ねていくがよい。ただし、平凡なミスには気をつけること」
 ソレシカと清風は揃って拍手をした。
 タロットの絵を見るだけで相手の今後について、順序立てて説明できることもすごいが、読み解き方も面白い。
 褒められたロリカは普段の冷静さを崩さないまま、タロットを揃えていく。占いには相手の態度が良くても傲らない鉄の心が肝要なのだろう。
「なるほどな。励まされたぜ!」
 手を叩くことを止めた清風は軽やかに言った。
「シトヤはどうする? 占うか」
 ロリカの親切心から尋ねられて、ソレシカは困った。今日は聖魔力が無効の日にあたる。占いが聖魔法術にあたるのかは怪しいのだが、もしそうであるならばロリカの占いを裏切ることになる。それは申し訳ない。
 同時に聖魔力と占いに関わりがあるのかも気にはなった。
 結局、ソレシカも占ってもらうことになった。内容は清風と同じく、神学の試験結果だ。
 ソレシカは占ってもらうための代償として、三種類の焼き菓子を渡した。格子模様のチョコレートクッキーが絶品の一品だ。
 そして、ロリカは清風と同じ手順で占っていく。布の上に現れた三枚のタロットがめくられていくのを真剣に眺めた。
 現在は、大きな戦車であり、未来は髑髏の仮面を被った黒頭巾がいて、アドバイスはラッパを吹いている。
 ロリカは黙った。
 滅多にないことだった。いつだってロリカは明晰に話を進めていく。だから、これは解釈が難しいというよりも、結果が悪いということはソレシカにだって察せられた。
「まあ、冷静に努力をすること」
「なに? 悪いのこれ」
 遠慮なく切り込んでくる清風に嘘を吐きたくないのか、ロリカは重々しく頷いた。
「まあ、死神とかいるしな」
 三枚に並べられたタロットの中心にいる髑髏の仮面を被っている存在は重圧を放っている。見ている側の未来を面白く笑っている雰囲気すら感じ取れそうだ。
「つまりは、ソレシカの命が奪われるのか」
「勝手に不吉な未来を確定させるな」
 呑気に物騒なことを言う清風に威嚇する。けたけたと笑われた。
 対する、ロリカはタロットをしまいながらも沈痛の面持ちだ。申し訳なさが伝わってくる。ソレシカはロリカに向かって、落ち着いたまま言う。
「気にはしないから。占いが、とか。ロリカが、とかじゃなくて。良いことも悪いこともあるのが人生だろ」
「すまない」
「ああ! 次の試験で勝負だな、ソレシカ!」
「お前は気にしろ」
 ソレシカは再度、清風に突っ込んだ。

 そして、数日後の神学の試験結果になる。
 返却された答案を見ると、ソレシカに優の判子が押されていた。対する、清風は良に加点がされているだけだ。
 その結果に清風のみならずロリカも悔しがっていた。占いの結果が、違っていたことに反省しているらしい。
「もっと腕を磨かないとな」
「確かに普段よりはよかったけどー! なんか悔しい!」
 占いやその結果に対して執念の炎を燃やす二人をソレシカは見つめる。
 まだ、自身の秘密である仮定については言えやしない。



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