戦歌を高らかに転調は平穏に 第十八話

 体感としては久しぶりの休日をどのように過ごすべきかと、タトエは考えていた。
 沈黙の楽器亭の、いまはまだ客のいないラウンジのソファに腰掛けながら、いくつもの選択肢を頭に浮かべる。
 どこか買い物に行ってもよいし、本をゆっくりと読むのも捨てがたい。サレトナ達を見習って、カクヤに誘われたギターの練習をするのもありだ。
 タトエは伸びをする。目を開けると、廊下を歩いてから玄関に向かうサレトナが見えた。タトエはソファから立ち上がり、サレトナの後ろから声をかける。
「一人?」
 サレトナが振り向いた。微笑みと共に頷かれる。
 タトエにしてみれば、意外だった。カクヤが隣にいないのならば、フィリッシュやロリカといった先輩達と出かけると予想していたのだが、違うらしい。
「珍しいね」
「たまにはね」
 以前よりも落ち着きのあるサレトナの様子に、タトエはまたも考える。
 これはカクヤとなにかあったな。
 だけれども、その点を追求できるほどタトエは不躾にできていない。笑顔で見送ることにした。
「休日、楽しんでね」
「ええ。タトエも」
 サレトナはそうして、淡い青のフレアワンピースで出かけていく。
 タトエはしばらく閉じた扉を見つめていた。だが、自室へ戻ることにした。
 出かける気分では、なくなってしまった。

第六章第十八話



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