昨日の穏やか、という言葉で表せる一日は終わりを告げた。
雨月の十三日である今日は、無音の楽団の講評試合第二戦目となる。
控え室になる二学年三クラスという居慣れない教室にて、カクヤ達は今回の試合で使用する技法術の確認、作戦の方針などを決めていった。
カクヤの選んだ技法術は乱火、標本火焼、祈りのための祈り、そして一定の範囲に向かって炎をまとった斬撃を向ける虎咆炎に、一人を対象とした刀技の暁迎虎だ。
サレトナは氷華彩塵、月砕砲といった使い慣れている攻撃の氷魔術と、阻害の術に加えて治療の魔術といったものを揃えているらしい。
他にもタトエは敬遠なる星の輝き、スターラインといった聖法から打鍵といった物理技まで幅広く用意している。
最後にソレシカだが、絶海といった物理攻撃技に特化していた。
サレトナを最後衛に配置して、タトエが中間で補助を行い、カクヤとソレシカが前衛を務める。今回は持久戦よりも、先を制する狙いだ。
「確認するぞ。今回は、防御よりも攻めにいく」
カクヤの言葉にサレトナ、タトエ、ソレシカが頷いた。
「俺とソレシカが落とされることは織り込み済み。タトエはできる限り控えて、なによりも」
そこまで言うと、カクヤはサレトナを見据えた。赤い瞳から注がれる視線を真っ直ぐに受け止めて、見返して、サレトナは口を閉ざしていた。
覚悟を決めている。
だから、カクヤも言えた。
「サレトナは、絶対に落とさせない。これが一番重要なことだ」
四人の間に覚悟が染み渡っていく。
ソレシカは身をもって仲間を庇うと、タトエは抜け目なく全員を補助すると、カクヤは力を尽くして責任を果たすことを決めていた。
サレトナも落とされないとはいえ、守られるのではない。一番の攻め手として、相手を傷つけることを承諾した。
カクヤが右手を前に出すと、サレトナからタトエ、ソレシカが重ねていく。
「準備はいいな」
「ええ」
「うん」
「ああ」
一度、呼吸をして。
「無音の楽団、全力でいくぞ!」
応、と気合を入れた。
>第六章第八話


