『世界が明日滅ぶとしたら』
その答えを誰よりも理解してくれたのは目の前にいる青年だった。由為はいまだに確信している。
言葉を交わしたのは花が冷えた風になびく季節。由為が此岸に立ち向かう前日に、彼岸の屋敷にある談話室で、貴海がカードの相手をしてくれた。午睡を誘うような薄まった光が差しこむテーブルの上へ、青と白のカードを出した貴海は思い出したように尋ねてきた。今日の夕食の希望を聞くような当然さと馴染みを持たせながらの質問だった。
「由為はなんて言って彼岸によこされたんだ」
よこされたとはまた物騒な物言いだと苦笑しつつ、尋ねられた質問に流暢に答える。
世界が明日滅ぶとしたら、どうするか。
答えを口にすると貴海は一言だけ返してきた。
「由為らしいな」
落ち着き、優しい、貴海の些細だが柔らかな言葉に、自分の夢が届いたと嬉しくなった。少しかもしれないけれど、認めてもらえた気すらして、勢いづいた由為は今日こそ貴海に勝ってやろうとテーブルの上にカードを出した。
いま出せる最良の手を見下ろして不敵に笑えば、貴海も微笑していた。彼岸では珍しいあたたかな陽光によって濃茶の髪は緩やかな茶色へと彩りを変えていた。すぐそばにいるはずなのに貴海はまるで人離れした存在だ。
だから聞いてしまう。
あなただったらなんて答えるのだろうか。
「世界が明日滅ぶとしたら」
空想じみた仮定の質問だとしても、その言葉は潰されそうなほど重く真剣だった。世界の滅びは仮定ではなく、必ず起こるのだとすでに知ってしまった人に、由為は言わずにはいられなくなる。
「俺は貴海先輩がそうならないように世界を救いますよ」
「軽々しくそんなことを言うものじゃない」
テーブルの上に出されたカードを山に戻して切り直す貴海にたしなめられて、由為は唇を尖らせた。同じようにカードを山に戻しながら心の中でむくれる。
あなたもまだ一人で抱え込んでいるんだから。
「とはいえど。誰が止めようとしても、由為は世界を救うことを諦めないのだろうな」
「怒りますか」
「いや。誇らしくて、哀しいだけだ」
言い終えた貴海はカードを場に出す合図をする。
由為はまた貴海に勝てなかった。
花園の墓守 由為編 プロローグ
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