戦歌を高らかに転調は平穏に 第十二話

 残りの試合時間はわからないが、一歩だけ無音の楽団が前進している。だからこそ攻撃は、両陣営ともさらに鋭さを増していった。
 ソレシカは一瞬、斧を止めて引くと、次の攻撃動作に移る。ロリカとマルディの杖と拳による攻撃を防ぎ、そこから自身の技を乗せた。斧でロリカの杖を受け止めた後に前へ押して、杖から一瞬、ロリカの手を放させる。その隙に、大きく斧を振った。追撃技となる来晴だ。相手の攻撃ごと、打ち破る。
 ロリカが再び杖を手に取る、その直後にソレシカは低くかがんで斧を半円状に回していった。避けられない攻撃により、マルディは体勢を崩す。
 ソレシカが狙ったのは、ロリカだった。程度は軽いが、不安定な姿勢から立ち直ろうとするロリカにソレシカは今日一番の大技を向ける。
 斧が空に向かって駆け上がる。ロリカの肉体に衝撃をもたらし、揺らいだところで袈裟で斬り落とし、吹き跳ばした。
 ロリカは膝を突く。無音の楽団の空板に黄色い明かりがまた一つ。
 ソレシカが奮戦している間にも、カクヤとクロルの戦いは続いていた。カクヤの刀が振るわれるとクロルの鎖が鋒を背けさせ、クロルの鎖が跳ばされるとカクヤは正面から受け止めて斬り返す。
 かんかんがんがんといった、音が響き続けた。
「しつこいな!」
「負け癖はよくないと言ったのは、そっちだろ!」
 両者とも一歩も引かず、また僅かでも引いたら即座に相手に倒されるという余裕のなさに戦術を組み立て直す間もない。現状維持で手一杯だ。
 見えない時計の針が終わりに向かって進んでいく中で、幸いだったのは自身に余裕がなくとも味方が広く場を見ていたことだろう。
 サレトナの凍光線が舞い踊る。いままで全体だった氷華彩塵が、クロルに向かって集中した。鎖の覆いによって、クロルは氷の乱撃を防いでいく。しかし、鎖は一本、また一本と砕けていった。
 残されるのは肩で息をするクロルだけだ。
 カクヤは振るう。刀を、振り下ろす。
 それでもまだ足掻こうと手を伸ばして、鎖魔術を編もうとするクロルの目が見開かれた。 ぐあん、と鈍い打撃音がする。
「すまない。戦いに、水を差した」
 スィヴィアの空板に赤い光が最後の点灯を見せる。
 床に刀を刺して、崩れ落ちることは耐えたカクヤが振り向く。その先にいたのは、ロリカだった。
 一番手強いのは、当然ながら彼女のようだ。
 甲高い音が鳴り響く。
 スィヴィアと無音の楽団の講評試合は終わりを告げた。

>第六章第十三話



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