二人は店員に声をかけられるとクレズニとタトエを示す。相席を頼んだのか、店員に案内をされるとカクヤはタトエの隣に座り、サレトナはクレズニの隣に腰を下ろした。
「兄さん? タトエと何をお話していたのかしら」
非の打ち所のない、完璧な角度でつり上げられた口角と笑んだ目でサレトナは問いかける。このままだとクレズニが悲惨なので、タトエは間に入ろうとした。
だが、その前に店員が注文を尋ねに来た。カクヤが答える。
「紅茶を二つ。冷たいのと、温かいので」
店員が去っていってから、クレズニは律儀に返答する。
「タトエさんには、貴方の話をしていただけですよ」
「人のいないところで、人の事情を勝手に話すの? 随分と不義理じゃない」
「やるべきことから逃げている貴方が言うのですか?」
普段の態度とは違うサレトナの厳しい語調と、クレズニのそれでも譲らない意思からは喧嘩になる雰囲気が漂ってきている。
いまだって、にらみ合いをしていた。
「まだロストウェルスに戻るつもりは無いみたいですが、誓礼はどうするのですか? このままで終わるはずがないことは貴方も分かっているでしょう」
「夏休みには一旦戻るつもりでした」
そこで、言葉を切る。
サレトナは居心地の悪そうなカクヤと会話にどうやって入り込むか悩んでいるタトエの手を強引に引っ張って、言った。
「ねえ。二人とも。ロストウェルスに来てくれない?」
「え?」
「え」
予想外の方向からきた振りに驚いてしまう。
まさか、友人の家族間の問題に引きずり込まれるとは思いもしなかった。自分にできることがあるのか、という戸惑いもある。
それでもサレトナから向けられる目は真剣だった。
「こちらの二人と、あと一人のことを私は心から信頼しているの。ロストウェルスで下手な護衛をつけるよりも、私の仲間達の方が腕も立つし」
「いや。でも、僕たちはまだ学生だよ?」
買ってくれるのはありがたいが、他人の命を預かるのはまだ荷が重すぎる。
タトエは再考を促すのだが、クレズニは反対しなかった。
「案外、それは良い考えなのかもしれませんね」
クレズニがカクヤとタトエに向き直る。
「カクヤさん。タトエさん。後日、正式にロストウェルスへの招待をさせていただきます。今日はこれまでにさせてください」
意見も反論も述べる間もなく、クレズニは一ロルも余分を残さずに支払いを済まして、席を立った。
カクヤとサレトナの紅茶が運ばれてくる。
くゆる湯気の奥でうつむきながら、サレトナが欠片の声をこぼした。
「ごめんなさい」
「いや。俺はいいよ」
「うん。僕も、まあ」
驚くことではあり、都合もつけなくてはならないが、迷惑ではなかった。
タトエが気になったのはいまいないもう一人の仲間についてになる。下手に蚊帳の外に置くと厄介なことになるだろう。
「ソレシカにも、お願いしてみるわ。でも、兄さんは本当に下手な話はしなかった?」
「うん」
サレトナはタトエの答えに安心を見せる。しかし、タトエの心境は反対だった。
中途半端な情報で終わってしまったが、サレトナの信ずるに値する神とは一体何になるのだろうか。
微笑しながら、サレトナとタトエは見つめ合う。互いに、ここでは言えないことがあるのは理解していた。
信仰、信条、理念。タトエは人の隠したいそれらを問い質して暴くことはできない。友人であろうとも、相手の魂については不可侵でいなければならないということを根深く教えられてきた。
聖職の家系であるために、強く刷り込まれていた。
>第七章第九話


