控え室である、二学年三クラスに戻った。
扉をゆっくりと閉めて、カクヤはうつむきながら長い息を吐いていく。それから、またゆっくりと息を吸い。
「勝ったーーー!」
まずはタトエと手を高く打ち鳴らした。
「もう、大喜びなんだから!」
そういったことを言うが、タトエも満面の笑みを隠せない。ユユシとの試合があと一歩であったために、今回の勝利は一層感慨深いものがある。
タトエはソレシカとも、サレトナとも手を打ち鳴らしていく。一番冷静なのはソレシカだった。勝つことに慣れているのだろう。
だとしても、普段より上げられた口角が誇らしいことを告げていた。
サレトナもソレシカと手を合わせ、カクヤと両手でぱん、と痛まない程度の強さで打ち鳴らす。
「カクヤも勝つと喜ぶのね」
「ああ、すっごく嬉しい。しかも相手は以前べっこべこにされたスィヴィアだったからな。それと、今回自分の決めたことが、間違っていなかったのにもほっとしてる」
カクヤがいま口にしたことは、サレトナを落とさせないと決めたことを指す。最初から加点の点差を読んでいたわけではないのだが、結果として、サレトナを守り切ったことが勝利に繋がった。
大切な人を守ることが、間違いであってはならないんだ。
「カクヤ、僕たちは先に他の試合を見にいくから。また、後でね」
タトエはカクヤ達に声をかけ、ソレシカと一緒に控え室を出て行った。控え室にはカクヤとサレトナだけが残される。
カクヤはまだ、控え室を退場するまで時間があることを確かめてから、椅子に座った。サレトナは立ったままだ。
「カクヤ」
「ん?」
サレトナがかがむ。視線を合わせると、悪戯気に杏色の瞳をまたたかせながら、言う。
「ご褒美は何でもいいからね?」
仄かな囁きに、カクヤは顔を赤くした。
講評試合前のデートなのかそうではないのかといった外出があった時に、サレトナは約束してくれた。講評試合で勝利することがあったら、ご褒美を一つくれる。
カクヤはサレトナに顔を寄せながら、同様にそっと言葉をサレトナに向けた。
「なんでも、嬉しい」
本音だった。
サレトナはきっと、期待を裏切らずに心からのご褒美をくれるだろうから。
カクヤがにこりと笑うと、サレトナは急に距離を作る。
「なんでも! するけど! あんまり……激しいことは許さないから!」
「いや。どういうこと考えてんだよ」
「言わせないで!」
つまりは言えないことを考えてしまったらしい。
サレトナの扱いは出会ったときから変わらず、絶妙に難しいのだが、その辺りも今度はどうなるのかが楽しみだ。
カクヤは立ち上がる。
「行くか」
「ええ」
控え室を出て行く。まずは、どこに行こう。休憩が先だろうか。
カクヤは次の行き先を考えながら、二学年三クラスの扉を閉めた。サレトナもその後に続き、隣に並ぶ。
二人は気付かないまま、並んで歩く背中を見ていた存在がいる。
それは無言のままいなくなる。
立ち去るだけではない。セイジュリオという場所から、いなくなった。
カクヤはそのことに気付かないまま、サレトナと話をしていた。
>第六章第十五話


