それでも前に進むから 2024/01/28

 お久しぶりの心持ちです。
 本日は曇りのち晴れ。夕方に降り注ぐ日差しの優しさを感じながらはちみつ湯を味わっています。
 成瀬です。

【拍手お礼】
 確かな音として届き、励まされています。面白かったよの音。

1月26日 午前12時
1月28日 午前3時


【失ってもうしなっても】

 もう二度と会えない人に聞きたいことがあった。
 それは「明日世界が終わるとしたら」なんていう自分勝手な前提でも「あなたが見たい空は何ですか」などという恋人に投げかけるような問いでもない。
 由為が聞きたいのはある意味残酷な問いだ。
「どうしてあなたは生きていけるのか」
 最愛の存在と再会するには過酷な条件を呑み込まないといけないというのに、どうしてあなたは希望を捨てずに、あるいは投げ出さずにいまも生きているのか。
 由為がある人物からとあることを知って最初に思い至ったのは純粋な疑問でしかなかった。
 もう二度と会えないだろう人と同じく、由為も言語領海に飛び出した無鉄砲な少年であることに変わりはないが、自分には七日がいる。一人ではない。いつかは独りになるとしても孤独になることは絶対にない。七日と過ごしている現在の日常が、かつて此岸と彼岸で生きた人たちとの過去の記憶が胸に刻み込まれていくために由為が寂しさに飢えることはないと断言できる。
 だからこそもう二度と会えない人に聞きたかった。昔のように後輩として無邪気に酷薄なことを尋ねてその答えを教えてもらいたかった。
「ファレンさんがいない世界でどうしてあなたは生きていけるんですか」
 かつてあなたはたった一つの物語のために世界全ての目を瞑らせようとしたというのに。
 

 前に進むしかない物語が好きなのです。たまに過去を振り返ることはあっても、幸福だった時間を噛み締めることはあっても、決して遡及できずまた取り返しのつかない罪や罰、後悔を抱えながらも生きていく。エンドロールが流れる前に失ったものを全て取り戻せるという都合の良いことも起きると期待していたのに、そんなことはなく空振りに終わる。 
 そういった物語は辛い上に苦くて、やりきれないのに。それなのに直らない物語が私は好きなのです。だから『花園の墓守』が出来上がりました。
 そうしていまはカクヤさんたちとヒアリングや相談をしながら一緒に「長編 無音の楽団」を組み立てています。これもまた、都合の悪い直らない物語になりそうです。
 その前に心の整理として、最初に載せた短い物語を読み直しながら、由為君は貴海さんが大好きですけれども理解者にはなれないのだよなあと胸が痛みました。由為君自身は貴海さんが好きですし、貴海さんも由為君のことを尊敬しているけれども、二人はすれ違う道しか選べなかった。
 由為君はファレンさんがいなくても今日という一日を何とかやっていけるという貴海さんの心情は、聞かないと分からない。その答えを教えられたとしても由為君が納得して理解できるのかは私も不明です。
 由為君にとっては貴海さんはファレンさんがいたから生きていけたという認識だから。そうではないと、世界を終わらせることなんてできないと、しないと信じているから。
 ですが貴海さんだって、二十九歳の大人ですが成長していきます。それにファレンさんがいないという、愛する物語を失う絶望の傷は常に痛み続けるけれどもそれを抱えて生きていける程度には貴海さんも大人だったのです。
 生きとし生けるものにとって最悪な条件でしか再会できないけれども、その機会がある時にはもう一度言葉を交わそう。そういった希望を胸に抱いて貴海さんは今日も生きています。
 だけれど、由為君はまだ若いから「そこまでして頑張って生きなくても良いのではないか」と考えてしまうのですよね。若さゆえの残酷さ。
 そうなると、由為君はまだ「いま何か手にしているもの」であり貴海さんは「もう何かを手から放したもの」になります。衛さんは「最初から何も手にしていなかったもの」ですけれども、それが悲しいことではないといいなあ。衛さんは一番、慎ましくわきまえて生きている方です。創るとなると貴海さんですし、語るとなると由為君になって衛さんの出番は控え目になりますけれど、私が軽んじられたくない『花園の墓守』の登場人物は衛さんときさらさんです。場を乱さない大人は物語だと目立たないのでしょうけれど、場を成立させるには彼や彼女らがいないとうまくいかないものですよ。
 さて、カクヤさんは何を手にして何を失い、それでもどうやって前に進むのか。
 先輩さんとして由為君、衛さん、貴海さんには見守ってもらいたいものです。


 久しぶりに創作サイトらしい雑記が書けたような。すっきりしています。

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