戦歌を高らかに転調は平穏に 第十話

 休憩に入った。
 カクヤは会場の裏の空間に用意されていた水の入った筒を開けて、勢いよく飲んでいく。タトエもソレシカも同様だ。サレトナは二口ほど口をつけただけで、何事かを考えている。
 落ち着いたカクヤは前半戦の状況を把握しようと考える。
 まず加点になるが、無音の楽団はマルディを二回と、クロルを一回倒した。
 スィヴィアはタトエとソレシカを一回ずつ倒している。これは、無音の楽団がマルディの分だけ有利になったことになる。
「ここで、守りに回るのは危険だな」
「うん。次は、スィヴィアはもっと攻勢を強めてくると思う」
 タトエの意見を聞きながら、カクヤは試合展開について考える。分担としては、マルディが単体で主にソレシカの相手をしていた。だが、タトエに隙があれば容赦なく首を刈りに来るだろう。とはいえ、一番泳がせやすい相手は物理攻撃しか持っていないマルディだ。
 クロルはアユナと組んで、魔法術の連撃を多用していた。こちらも、片方を潰せたら隙ができるだろう。片方につきまとってとにかく阻害する一手が有効だと考えられる。
 最後にロリカだが、前半の試合で見せたのは風の魔法だった。マルディにかけた援護と、不利な状態を回復させていた。とはいえ、後半は攻撃の手札も切ってくるだろう。
 主に遠距離からの魔法術を主にするスィヴィアに対して、どのように対抗するべきか。
「ねえ、魔法術を行使するための基本はわかっているわよね」
 サレトナが問いかけてくる。
「詠唱による上位存在への呼びかけと、承認があるってことだろ?」
「そう。だから、アユナさんとクロルさんは詠唱速度の差を少くなるようにしている。だけど、承認までは多少の違いがあるわ。アユナさんは、より長い時間をかけてから承認されている。効果が大きいからでしょう」
 詠唱を終えるまでの時間はさほど変わらないが、その後の承認までの過程にアユナは時間がかかるという。ならば、クロルよりもアユナの詠唱を遮っていけば、二人の魔法術が発動される間はずれていくはずだ。連携は止められる。
 さらにアユナが使っていたのは「雪道百五十七選」という視認に影響を与えるといった、弱体化が大きい。それらに前半戦は足を取られた。
「で、リーダー。後半戦はどうするんだ? 俺も今回は威力倍増の日にしたから、魔法術に耐性はないぜ?」
 カクヤはいまだ点数が隠されている空板を見上げた。
「サレトナ以外は、全員前に出る」
 スィヴィアはユユシと違い、聖魔法術を主な攻撃手段としている。どうしても、詠唱という足枷があるので、突くとしたらそこしかない。
「サレトナは大変だろうが、とにかく相手を足止めさせてくれ。とどめはこっちが刺す」
「相手につくのは、マンツーマン? それとも、ゾーンでいく?」
「距離を与えるのは危険だから、つかずはなれずだ。タトエはアユナくん、ソレシカはマルディさんと命唱。俺はクロルを担当する」
 大体の方針は決まったが、サレトナが補足する。
「それでいいと思うけど、マルディさんはもし私に来たら邪魔をするくらいでいいと思う。こちらまで来るのは距離があるし、ロリカが本気を出したら厄介よ」
「それは確かに」
 普段は冷静で一歩引いているが、何をするのかが不明な恐ろしさがある。
 とはいえど、引くわけにはいかない。ここは前に出るときだ。
「じゃあ、後半戦もがんばろう!」
 タトエの喝に気合いを入れられた。

>第六章第十一話



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