プロローグ
『世界が明日滅ぶとしたら』
その答えを誰よりも考えていたのは目の前にいる人だったのだろう。衛は聞かれたときには気づけずにいて、思い至ったときは遅かった。
花影との戦いの前日に貴海は問いかけてくる。
「明日滅ぶとしたら、衛はどうするんだ」
日常になった手合わせの後に息を整えているあいだ、どこかで聞いたことがあるような問題に思いを巡らせていると一人の少年が頭に浮かんだ。
由為君だ。
かつて恥じらいながら、世界の終わりについて話していた少年を思い出すと、胸の奥が後悔で灼ける。同時にどうしていま疑問を投げかけられたのだろうと不思議になり、貴海を見た。貴海の紫の瞳は穏やかだった。
試されているのだ、と直感する。落ち着いてるが底の見えない貴海の瞳を真っ直ぐに見つめ返しながら、衛は答えに悩んで、言う。
「滅びに従います」
一拍だけ間を置いてから続けた。
「大切な人の傍にいながら」
「衛も強いな」
これまで、十指では数え切れないほど遊戯と手合わせで負けを積み重ねさせてきた相手が何を言う。口にはしないけれど、微かな苦笑を隠せずにいながら衛は反対に訊いてみた。
「貴海さんだったらどうするんですか」
「俺は」
その先を衛が聞ける瞬間は、何時になるか分からないままだ。
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