戦歌を高らかに転調は平穏に 第十四話

 控え室である、二学年三クラスに戻った。
 扉をゆっくりと閉めて、カクヤはうつむきながら長い息を吐いていく。それから、またゆっくりと息を吸い。
「勝ったーーー!」
 まずはタトエと手を高く打ち鳴らした。
「もう、大喜びなんだから!」
 そういったことを言うが、タトエも満面の笑みを隠せない。ユユシとの試合があと一歩であったために、今回の勝利は一層感慨深いものがある。
 タトエはソレシカとも、サレトナとも手を打ち鳴らしていく。一番冷静なのはソレシカだった。勝つことに慣れているのだろう。
 だとしても、普段より上げられた口角が誇らしいことを告げていた。
 サレトナもソレシカと手を合わせ、カクヤと両手でぱん、と痛まない程度の強さで打ち鳴らす。
「カクヤも勝つと喜ぶのね」
「ああ、すっごく嬉しい。しかも相手は以前べっこべこにされたスィヴィアだったからな。それと、今回自分の決めたことが、間違っていなかったのにもほっとしてる」
 カクヤがいま口にしたことは、サレトナを落とさせないと決めたことを指す。最初から加点の点差を読んでいたわけではないのだが、結果として、サレトナを守り切ったことが勝利に繋がった。
 大切な人を守ることが、間違いであってはならないんだ。
「カクヤ、僕たちは先に他の試合を見にいくから。また、後でね」
 タトエはカクヤ達に声をかけ、ソレシカと一緒に控え室を出て行った。控え室にはカクヤとサレトナだけが残される。
 カクヤはまだ、控え室を退場するまで時間があることを確かめてから、椅子に座った。サレトナは立ったままだ。
「カクヤ」
「ん?」
 サレトナがかがむ。視線を合わせると、悪戯気に杏色の瞳をまたたかせながら、言う。
「ご褒美は何でもいいからね?」
 仄かな囁きに、カクヤは顔を赤くした。
 講評試合前のデートなのかそうではないのかといった外出があった時に、サレトナは約束してくれた。講評試合で勝利することがあったら、ご褒美を一つくれる。
 カクヤはサレトナに顔を寄せながら、同様にそっと言葉をサレトナに向けた。
「なんでも、嬉しい」
 本音だった。
 サレトナはきっと、期待を裏切らずに心からのご褒美をくれるだろうから。
 カクヤがにこりと笑うと、サレトナは急に距離を作る。
「なんでも! するけど! あんまり……激しいことは許さないから!」
「いや。どういうこと考えてんだよ」
「言わせないで!」
 つまりは言えないことを考えてしまったらしい。
 サレトナの扱いは出会ったときから変わらず、絶妙に難しいのだが、その辺りも今度はどうなるのかが楽しみだ。
 カクヤは立ち上がる。
「行くか」
「ええ」
 控え室を出て行く。まずは、どこに行こう。休憩が先だろうか。
 カクヤは次の行き先を考えながら、二学年三クラスの扉を閉めた。サレトナもその後に続き、隣に並ぶ。
 二人は気付かないまま、並んで歩く背中を見ていた存在がいる。
 それは無言のままいなくなる。
 立ち去るだけではない。セイジュリオという場所から、いなくなった。
 カクヤはそのことに気付かないまま、サレトナと話をしていた。

>第六章第十五話



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